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<多様な声は、今>(中)「誰も置き去りにしない」 障害者の視点で政策を

 すぐ目の前を通り過ぎていく人々の姿は、見えていない。右手にマイク、左手に白杖(はくじょう)。せわしなく聞こえる足音に向かって、呼び掛ける。

 「真心の目で県政を変える。誰も置き去りにしない地域をつくる」

 八日朝にJR北浦和駅前に立った嶋垣謹哉さん(57)。中途の視覚障害者として生きてきた経験を県政に生かそうと、二十九日告示の県議選に、南7区(さいたま市中央区)から立憲民主党新人として立候補する。

 視界に違和感を感じた二十二歳の時、網膜色素変性症と診断された。進行性の目の病気で、根本的な治療法はない。年を重ねるうちに視力が落ちて視野も狭まり、二〇〇〇年に障害者手帳を取得。今では文字も読めなくなり、光を感じる以外はほとんど見えない。

 勤務する大手メーカーでは病気の進行を機に営業職から人事総務畑に移り、障害がある社員の雇用環境の改善などに取り組んだ。障害者団体の役員や市の外部委員として、行政と接した経験もある。

 でも、駅のホームドア設置や中途障害者の就労支援など、望む施策は思ったように進まない。「やっぱり政策決定の場に当事者が入らないと」。そんな思いが募るようになった。

 初めての選挙に向け、訴えには自らの経験も交える。「線路に二回落ちたことがある」「目が見えなくても、情報提供や職業訓練がしっかりされれば十分に一線で働ける」

 もちろん、健常者と同じようにいかない点もある。あいさつ回りは支援者に同行してもらうし、雨天での活動は躊躇(ちゅうちょ)してしまう。ビラのデザインも自分では確認できない。

 もし当選したら−。健常者が考えるよりも、できることは多い。文字を読み上げるソフトを使い、パソコンのメールだって日常的に使っている。「資料は紙ではなく電子データでもらえれば大丈夫」。ただ、急な追加資料など不安も残る。

 一七年一月の戸田市議選で初当選した聴覚障害者の佐藤太信(たかのぶ)さん(38)は「私が当選した時、議会事務局も同僚の市議たちも戸惑っていたと思う」と振り返る。

 重度の難聴。静かな場所で一対一なら、補聴器を使いながら相手の唇を読み取ることで会話が可能だが、議場ではそうはいかない。

 最初の定例会では、議席の前に手話通訳を配置してもらった。当初はそれで十分だと思ったが、専門用語が早口で飛び交う議場では限界があった。二度目の定例会から、マイクが拾った音声が手元の画面に文字表示される音声認識システムも併用するようにし、議論の内容をほぼ理解できるようになった。

 手話通訳と音声認識システムの費用は、市の予算である議会費から支出されている。佐藤さんの当選後に手話を勉強してくれた市議もいた。「初期投資と周りのサポートがあれば、障害者でも同じスタートラインに立てる」

 全国の障害がある地方議員らでつくる「障害者の自立と政治参加をすすめるネットワーク」は昨夏、障害の有無にかかわらずに議員が平等に活動できる環境整備を求める文書を、全国都道府県議長会などに提出した。代表でさいたま市議の伝田ひろみさん(70)は「自治体によって障害のある議員への対応がまちまちだ」と現状の課題を語る。

 参考にしてもらおうと添付した「合理的配慮の好事例集」には、議員の障害の種類に応じて各地の議会で導入された対応策を記した。「演壇が上下するように改造」(両下肢まひ)、「表決では介助者が本人に代わり起立・挙手する」(全身まひ)、「配布資料は極力点訳する」(全盲)といった具合だ。

 自身も四肢の障害があり、車いすで生活する伝田さん。障害がある議員が増えてほしいとの願いもあるが、それだけではない。そのことで「議会が率先して障害者に優しい環境をつくれば、市全体にも広がっていく」と期待を寄せている。

 

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