東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 特集・連載 > 統一地方選2019 > 埼玉 > 記事一覧 > 記事

ここから本文
写真
 

焦点の現場から(上) 待機児童問題 保育士、東京に流出も

私立保育園で昼食を囲む1歳児と保育士。園長は「求人に時間を取られず、保育に集中したい」と話す=戸田市で

写真

 「どこも空いてない…」。一歳半の長女の預け先を探そうと保育園の空き状況を確認した本庄市の女性(38)は、がくぜんとした。親の介護もあり、週三日ほどの仕事を探しているが、これでは保育園には入れない。今秋から保育の無償化が始まることから「さらに激戦になりそう」と先行きに不安を覚えている。

 「保育園落ちた 日本死ね!!!」と題した匿名ブログが国会で取り上げられてから三年。いまだ待機児童問題は深刻で、埼玉も例外ではない。

 県内の昨年四月時点の待機児童は千五百五十二人で、全国で四番目の多さ。さいたま市(三百十五人)や朝霞市(百六人)など東京都内に通勤する若い世帯が多い都県境の市町に集中しているのが特徴だ。

 問題は、保育園の増設だけでは解決しない。県内の保育士の有効求人倍率は四・七六倍(昨年十一月現在)で、東京の六・四四倍に次いで全国ワースト二位。公務員となる公立園と比べ、私立園での人材確保が深刻となっている。

 朝霞市のある園では、保育士が辞め、求人広告を出してハローワークにも登録したが、替わりが見つからないまま一年が過ぎた。子どもの受け入れ人数を減らさざるを得なかった。

 最近はハローワークでなく、就職すると祝い金がもらえる仲介会社に登録する保育士が多いという。園が支払う紹介料は保育士一人当たり七十万〜百万円ほど。戸田市の保育園長は「法人全体で一年に一千万円は使った」と明かす。財源は、国や市が補助する園の運営費=税金だ。

 保育士不足には、転職の多さも影響している。県内の保育士の平均勤続年数は約七年で、離職率は14・3%に上る。

 県私立保育園連盟(私保連)が昨年五月に実施した加盟園へのアンケートでは、回答した百九園のうち、二〇一六〜一七年度の二年間に県外への転職者があったと回答したのは四十八園。理由は「転居のため」が二十五園、「埼玉より賃金が高い」が二十園と続いた。転職先は東京が三十一園で最も多かった。

 給料の原資は、国が定めた保育士の配置基準や園の立地などに基づいて決まる運営費。東京都は、独自予算で月額約三万五千円の加算があるが、埼玉県はない。厚生労働省の一七年のサンプル調査では、埼玉の保育士の平均年収は約三百三十一万円で東京より六十五万円低かった。

 私保連は、保育士の他都県への流出を防ごうと県に上乗せを要望している。

 一方、県は「加算の効果は一時的」だとして消極的だ。働き続けられる職場作りに目を向け、経営者セミナーや外注のアドバイザー四人を現場に派遣している。

 保育現場では、賃金以外にどんな課題があるのか。戸田市が十八日に開いた保育士の交流会で、参加者が悩みを語り合った。「保護者に子ども同士のトラブルを説明するのが難しい」「先輩と保育の考え方が違う」。子どもとの接し方以外に悩む若手が多かった。

 園側でも、保育に集中できる環境づくりに努めている。三郷市の三郷ひだまり保育園では、子どものちょっとしたけがで保護者に必要以上に謝ることはしない。多田郁子園長は「子どもが遊んで転ぶのは自然なこと。保育はサービス業ではなく、成長を見守る仕事」と事前に説明しているため、苦情はないという。

 保育の問題に詳しい前田正子・甲南大教授は「埼玉で保育士として働き続けたいと思える労働環境が重要。園の努力に委ねるだけでなく、県が主導して長時間労働せずに育休も取れるモデル的な仕組みを作って示していくのが現実的ではないか」と話している。 (浅野有紀)

 ◇ 

 統一地方選の前半戦となる県議選とさいたま市議選の告示(二十九日)が間近に迫った。子育てや高齢者福祉、人口減少地域などの現場を取材し、県内の課題を探った。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】