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争点の現場から(下) 高齢者の生きがいづくり 「地域デビュー」PRに課題

今月3日に開催された「地域デビュー万博」で、そば打ちを体験する参加者。この日は約2200人が来場した=越谷市で

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 今月三日。越谷市のイオンレイクタウンで、一風変わったイベントが開かれた。定年退職後に地域活動などに参加する「地域デビュー」を後押ししようと、県が二〇一七年に結成した「地域デビュー楽しみ隊」の隊員が勢ぞろいし、活動の魅力を紹介する内容だ。

 そば打ちなどの体験コーナーのほか、パネル展示や講演会を通じて、二十三人の隊員が買い物客のシニア世代に積極的にアプローチしていく。相談も含めて隊員がこの日配った名刺は約千枚に達した。そば打ちに参加した同市の元会社社長の男性(76)は「仕事人間だったので、これまで地域との接点がなかった。新しい仲間づくりができれば、刺激になる」と笑顔だった。

 「地域デビュー万博」と銘打ち、主に若者や親子連れでにぎわう商業施設であえて実施した今回のイベント。隊員の高荷(たかに)和久さん(67)=さいたま市=は「完全アウェーだったかもしれないが、今まで接点がなかった層にPRしたかった。楽しみ隊の活動はまだまだ課題だらけ」と話す。

 「人生百年時代構想」−。一七年秋に国が掲げた政策提言に先立ち、県は同年夏に公募などで集まった計二十八人で楽しみ隊を結成。各地で趣味やボランティアに励む隊員が会員制交流サイト(SNS)を駆使し、高齢者の生きがいづくりを後押ししてきた。県の独自事業であり、総合的なアクティブシニア(元気な高齢者)の支援も含めて一七年度以降、約八千万円の予算を投じた。

 さまざまな経歴や特技を持ち、活動の楽しさやノウハウを自分たちの言葉で発信する隊員たち。相談や問い合わせも随時受け付けており、今回のイベント後もそれらの反応は上々だった。

 だが、県内の六十五歳以上人口(一五年時点)は約百七十九万人。県の担当者は「まだまだ無関心層は多いはず。もっとどうPRできるかなど問題意識は持っている」と明かす。

 高荷さんも同様の課題を意識する一人だ。現役時代は百貨店に勤務し、キャリアコンサルタントとしてスタッフ教育に携わった。その経験から、参加者同士がやりたいことを話し合う「自分探しカフェ」と名付けた自主企画を定期的に開催。これまで約六十人が参加しているが、新規の参加者が頭打ちになっており、今後の展開方法を思案する。

 「カフェの存在を知らなかったり来なかったりする、より多くの『行動に移せない』人たちにどう呼び掛けを続けるか。時間はかかるが、一人一人と膝を突き合わせて話し合うことを積み重ねるしかない」と打ち明ける高荷さん。県の担当者も「隊員の自主企画の支援など情報発信の場を増やし、共感するシニア世代を増やしたい」と語る。

 県は一九年度事業として、地域デビューの新たなPR戦略に向けた企画提案の募集を始めたばかりだ。事業の効果が見えにくい分野だが、人生百年時代を見据えた高齢者の生きがいづくりの輪を広げる取り組みの模索は続いている。 (藤原哲也)

 

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