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県議選 定数の3分の1超、32人無投票 「異常事態」に危機感は…

「無投票」を知らせる紙が貼られた選挙用ポスターの掲示板。足を止めて見る人はいなかった=熊谷市で

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 二十九日に告示された県議選(定数九三、五十二選挙区)は、過去最多の二十二選挙区が無投票になった。定数の三分の一を超える三十二人が有権者の審判を受けずに当選し、有権者六百十二万人のうち二百万人が一票を投じる機会を失った。異常とも言える事態に、市民や当選者は何を思うのか−。 (渡部穣、出来田敬司、井上峻輔)

 「無投票 投票はありませんので、お知らせします」。告示から一夜明けた三十日朝。北5区(熊谷市)の市内に設置されていた選挙用ポスター掲示板には、市民に無投票を知らせる紙が貼られていた。

 県議選で熊谷市を含む選挙区が無投票になるのは戦後初めて。一人区や二人区よりも無投票になりにくい三人区でありながら、自民党と立憲民主党の現職二人と無所属新人の計三人しか立候補しなかった。

 二十九日夜、JR熊谷駅前で有権者に話を聞いた。「初めて投票できると思っていたから、選挙になってほしかった」と残念がったのは高校を卒業したばかりの男性(18)。投票を欠かしたことがないという六十代女性は「なぜ無投票になっちゃうのか分からない。若い人は現状に満足しているのかな」と首をひねる。

 圧倒的に多かったのは、県議選の存在すら知らないという声だ。五十代の男性会社員は「無投票は初めてなの?」と驚きつつも「正直、興味はない」。アルバイト女性(18)も「そもそも、投票するつもりもなかった」と話す。七十代男性は「市議選は選挙戦になるし、県議会への関心は低いのでは」と分析した。

 立候補した側も胸中は複雑だ。初当選が無投票となった無所属新人の杉田茂実さん(65)は「きちんと選挙をやって当選というのが王道。できれば選挙戦をやりたかった」と喜びも控えめ。無投票をなくすには「政治に対し、市民が夢を持ってもらえる環境づくりが必要。それは今の政治家が担わなければならない」と述べた。

 なぜ無投票がこうも増えたのか。大きな理由の一つは、国政野党が多くの選挙区で候補を擁立できなかったことだ。

 今回、自民は推薦を含めて五十選挙区で六十一人の候補を立てたが、他党は最多の共産党でも十四人。立民も、結党一年半の現在の態勢からは十人の擁立にとどまった。結果として無投票で当選した三十二人中、二十三人が自民。定数二を自民が独占した選挙区もあった。

 定数一の北1区(秩父市)で三選を決めた自民現職の新井豪さん(43)は「自民が強いというよりも野党側に戦う準備ができていないのが原因では」と述べた。前回に続いての無投票当選を「無投票でいいという有権者の声の表れでもある」とみる。

 ただ、国政野党や無所属の候補が出馬しにくい要因もある。一人区が全国で二番目に多い二十七もあることだ。一人区は現職の壁が厚く当選へのハードルが高いと言われるが、実際に半数以上の十四選挙区が無投票になり、そのうち十三で自民現職が当選した。

 昨秋に県議会で区割り変更が検討された際、各会派からは一人区を減らして複数区を増やす案が相次いだ。だが、最大会派の自民などは現状維持を主張し、変更はされていない。

 埼玉大社会調査研究センター長の松本正生教授は「無投票がこれだけ多いことに社会や県議会がどれだけ危機感を持てるかが大事」と語る。改選後の議員が今回の事態をどう受け止めどう対応していくかが問われることになりそうだ。

 一票を投じられなかった秩父市の手工業の男性(76)の言葉が重く突き刺さる。「多くの人は政治に関心を持っていない。無投票となると有権者は余計に政治から離れ、政治家は有権者の声を聞いてくれなくなる」

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