選挙戦が折り返しを迎えた二日、JR大宮駅東口の商店街に、自民党現職の藤井健志(たけし)(43)が店舗を一軒一軒回る姿があった。
付き合いのある店主が多く「先日はどうも」から話が弾む。戦況について問われると「厳しいです」と答えて続けた。「この地域は立憲民主党がすごく強くて」
南5区(さいたま市大宮区)は、藤井と立民新人の山田千良子(ちよこ)(33)の一騎打ち。一見単純な構図は、この地ではより重要な意味を持つ。大宮が、立民の枝野幸男党代表の地元だからだ。
立民の結党直後だった二〇一七年十月の衆院選では、枝野が大宮を含む小選挙区(埼玉5区)で自民候補を大差で破り、九選を果たした。県内でも立民支持者が多い地域とされる。
「枝野さんと戦っているような実感」と藤井。国政と絡めた周囲の見方を打ち消すように、こう訴える。「地方選挙は政党間対立ではない」
藤井は、自民県議が政務活動費の不正受給で辞職したことに伴う一七年八月の県議補選で初当選。枝野がバックアップした民進党新人を破ったが、当時は「オール大宮」を掲げて政党の公認は受けなかった。「この選挙区は政党の看板を掲げることは不利になる」との認識が陣営にはある。
それでも、藤井は昨年末、無所属から自民会派入りを選んだ。「政策の実行には数の力が必要だ」。一部の支援者から批判も受けたが、理解を求めた。
実現したいのは、まちづくりの推進だ。「人や企業に選ばれるまちをつくる。そうすれば財源を確保でき、医療や福祉など身近な政策が実行できる」。自民の国会議員や市議候補とも連携しながら「大宮のさらなる発展」を訴える。
対する立民の山田は、元会社員。八歳と三歳の子どもを育てる母親で、女性議員の増加を目指す党にとっては「立民らしい候補」(県連幹部)だ。
「決心した時、私には何もなかった。手伝ってくれる人も、お金も、地域での知名度も」。告示日の出陣式ではそう語った。公認決定が二月末と出遅れた中で、急ピッチで準備を進めてきた。
仕事と子育ての両立で苦労した自身の経験から、子どもを育てやすい環境づくりを掲げる。あえて小さい公園を回って子育て世代に声を掛けることも。街頭では「県議会は女性がたったの一割。声は届いているでしょうか」と呼び掛ける。
二日は、大宮駅東口に立った。それも朝から夜までずっと。人通りの多い場所で、なるべく多くの人に名前を覚えてもらう狙いだ。
藤井陣営とは対照的に、政党名も前面に出す。「枝野票」をどれだけ自身の票に結び付けられるかが一つの鍵となる。とは言え、党代表として全国を飛び回る枝野は、選挙期間中は地元にはほとんど入れない。
代わりに二日夕にマイクを握ったのは、知名度の高い辻元清美党国対委員長。「枝野幸男を生み出した埼玉の皆さんに、立憲民主党を強くしてもらいたい」と声を張り上げた。
投開票日の七日まで残り二日。国政の影響も織り込みながらの選挙戦は佳境に入っている。 =敬称略、おわり
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