2014年9月28日朝刊1面、社会面
上空高くまで噴煙を上げる御岳山=27日午後2時13分、長野・岐阜県境で、本社ヘリから
27日午前11時53分ごろ、長野、岐阜県境の御嶽山(3067メートル)が噴火した。長野県木曽広域消防本部が山頂付近の山小屋関係者に聞き取りしたところ、山小屋や登山道に40人以上が取り残され、このうち意識不明が7人、重症者が25人、けが人が8人いるという。今後の聞き取りで被害者数が変わる可能性がある。登山者から木曽署に「女性が1人、死亡している」と通報があり、確認を急いでいる。御嶽山の噴火は、ごく小規模な噴火だった2007年3月以来。
長野県警と岐阜県によると、山小屋に残っているのは41人。九合目の「五の池小屋」に登山客や山岳パトロール中の岐阜県下呂市職員ら36人がおり、このうち登山客二人が胸や腕の骨を折る重傷。山頂近くの御嶽剣ケ峰山荘に4人、御嶽頂上山荘にけがをした女性1人。剣ケ峰山荘付近には、7人が火山灰に埋もれ生死不明の状態のほか、6人がけがなどで登山道に残っているとの情報がある。長野、岐阜両県警は28日朝、地上から救助に向かう。
噴火当時、山頂付近には250人以上の登山者がいたとみられ、これまでに232人の下山を確認。登山口駐車場に止めてある車のナンバーから所有者を調べ、登山者の安否の確認をしている。
長野県警によると、噴煙は上空1キロまで上昇、山頂付近で火山灰や噴石が降るのを確認した。国土交通省中部地方整備局がヘリコプターで調査したところ、山頂南側に3カ所前後、噴火口のようなものがあるという。
名古屋大地震火山研究センターの山岡耕春教授によると、噴火はマグマに熱せられた地下水が沸騰して圧力が高まり、岩石を吹き飛ばす「水蒸気爆発」の可能性があるという。
長野地方気象台によると、噴火当時の山頂付近の風は弱かったが、2000メートルほど上空で西寄りの風が吹き、噴煙が長野県側に多く流れたとみられる。28日には静岡、山梨両県にも広がる見込み。
噴火活動は続いており、気象庁は「今後、同規模の噴火が起きる可能性がある」と説明。火口から4キロの範囲で噴石の飛散の危険がある。
気象庁によると、御嶽山は9月中旬に火山性地震が増加していたが、他の観測データに変化はなく、噴火警戒レベルは1(平常)を維持。噴火後にレベルを五段階のうち3(入山規制)に引き上げた。同庁は「噴火の予測は難しかった」としている。入山規制の対象は長野県王滝村と木曽町、岐阜県高山市と下呂市。
長野県は自衛隊に救助を要請し、王滝村と木曽町に対して災害救助法を適用。両町村が設置した避難所の費用などを国と県が負担する。
「ドン」「ドン」。地鳴りとともに、なんの前触れもなく、鳴り響いた鈍い音が始まりだった。
頂上の剣ケ峰に続く尾根「八丁ダルミ」(地図A)で、長野県松本市のアルバイト垣外富士男さん(63)は100メートルほど先に白い煙が二つ、むくむくと噴き上がっていくのを見た。煙ですぐに周辺が闇に包まれると、こぶしから畳ほどの大きさの石が降ってきた。
「この場所にいてはまずい」。噴煙が押し寄せる側とは反対の斜面に逃れようとしたとき、今度は、猛烈な熱風が襲ってきた。火山灰で鼻や口、耳が詰まり、熱さも加わって息ができない。「ザックを背負っていなかったら熱でやられていた。死ぬかと思った。助かったのは奇跡としか思えない」。気が付くと全身は灰で真っ白。足元には50センチほどの灰が積もっていた。やっとの思いで登山道を下った。
山頂付近(B)にいた岐阜県中津川市の四十代の男性会社員の周囲には、直径1メートルほどの岩が落ちてきた。男性は30分ほどうずくまった後、恐怖心から荷物をすべて置いて逃げ出した。
「火山灰で周りが真っ暗になった。もうだめかと覚悟を決めた」。名古屋市守山区の岸明博さん(43)は振り返った。赤や黄に色づき始めた山の景色を楽しみながら四ノ池(C)から山頂を目指していたが、ヘッドライトを点灯しても2メートルほど先しか見えない。熱い灰が口に入るのを防ごうととっさに手ぬぐいで口元を覆い、逃げた。
岐阜県郡上市から仲間と登山に来た山内喜康さん(40)は山頂にほど近い一ノ池(D)で昼食を終えたところ爆発音を聞いた。「振り向いたら煙が一気に立ち上った」。しばらくして、火山灰が降り始め、慌てて下山の準備を始めた。
各地の山小屋や避難小屋には、次々に負傷者が運び込まれた。九合目で石室山荘(E)を営む男性は、腕を骨折するなどして、歩けなくなった二人をはじめ負傷者五人をロープウエーまで連れて行き、下山させた。
山小屋「二ノ池本館」に避難した人たち(登山者提供、共同通信)は100メートルほど先に白い煙が二つ、むくむくと噴き上がっていくのを見た。
穏やかな天気に恵まれた週末。御岳山には多数の登山客が集まっていた。松本市の信州大山岳科学研究所助教の朝日克彦さん(41)は、剣ケ峰から約750メートル離れた摩利支天山の山頂(F)にいた。「がらがらと地響きのような音がして、剣ケ峰から猛烈な勢いで煙が押し寄せてきた」。カメラの望遠レンズでのぞくと、剣ケ峰山頂付近は隙間がないほど登山客でぎっしりと埋め尽くされていた。
垣外さんも下山の途中、尾根に家族連れや若い女性客ら100人ほどがいたのが分かった。「『助けてくれ』という声も聞こえたが、周りが見えなくてどうしようもなかった」と絞り出すように言った。
母親と訪れていた愛知県豊田市の小学五年・伊藤誉人くんは「いきなり黒い煙が広がってびっくりした」と下山後、恐怖の体験を振り返った。「途中、泥みたいな雨が降ってきて、怖くて不安な気持ちになった。周りのみんなが『大丈夫だよ』と励ましてくれた」と声を振り絞るように話した。