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<ここが変だよ!川崎市議会>(上)委員会審査中の請願・陳情 質問阻む奇妙な慣例

任期最後の定例会が閉会し、一斉に議場を後にする市議たち=川崎区で

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 「趣旨は理解してもらえたと思ったのに…。納得できませんでした」。川崎市宮前区役所の移転に絡む陳情を昨年五月、市議会に出した区内の男性は、陳情が結果的に採択されなかったことに不満を漏らした。

 市が、東急田園都市線・宮前平駅近くにある区役所の鷺沼駅前への移転検討を進める中、陳情は、建て替えの必要性や、今の場所で建て替える場合との費用比較が示されていないことを指摘し、市に慎重な検討を求めた。

 陳情は、四十五の町内会や自治会でつくる区内の向丘地区連合自治会から出された。多くの区民の声を代弁していることは明白で、議員たちも真摯(しんし)に受け止める必要があった。

 八月の市議会文教委員会で審査され、委員たちからは「もっともな意見」などと、採択に前向きな発言が相次いだ。しかし結果は不採択。

 委員の間には継続審査を求める意見もあったが、それを阻んだ理由の一つが、審査中の請願・陳情の内容は、本会議の代表質問などで原則、取り上げることができない、という、議会に長く続く奇妙な申し合わせによるものだった。

 つまり、移転関連の陳情を委員会で継続審査にすれば、議員は本会議で市長らを相手にこの問題で論戦を挑みにくくなる。実際、文教委員会でも、ある委員が「継続審査にしたら、質問に制限が出る」と述べ、不採択に回った。

 川崎市議会の申し合わせや慣例をまとめた手引には、審査中の請願、陳情の内容は「(委員会の)審査権を尊重して(代表質問で)質問を行わない」とあり、委員会の優位をほのめかしている。

 なぜ、議員の質問を制限するようなルールがあるのか。少なくとも県議会や隣の横浜市議会にはない。手引は一九八三(昭和五十八)年に初版が作られた。議会局によると、当時は今より三会派多い七会派あり、質問する議員が多かった。あるベテラン市議は「市と市議会の多数派が、議会内の議論を収拾できなくなることを懸念したのでは」と推測する。

 区役所の移転絡みの陳情が不採択になった約半年後、市は移転方針を正式に発表。市の対応に不満を感じる市民団体は、宮前区内の市議選立候補予定者に、移転方針への考えを問う公開質問状を出した。議会の議論が尽くされなかったことで、かえって市民に不満がくすぶり続けている。慎重な検討を求めた陳情が採択されていれば、展開は違ったのかもしれない。

 最新の手引(二〇一五年版)には慣例が二百九十項目並ぶが、市ホームページなどでは公開されておらず、希望者は議会局で閲覧するしかない。また、手引に記されていない慣例も多い。市民の知られざるルールが、暮らしの行方を左右しかねないといえるだろう。 (大平樹)

 ◇ 

 百五十万の市民の代表を選ぶ市議選(二十九日告示、四月七日投開票、定数六〇)を前に、あまり知られていない川崎市議会の変わったルールを明らかにする。

市が方針を固め、宮前区役所が移転してくることになった東急鷺沼駅前=宮前区で

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