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<縮む地方議会>(上)定数減らす?維持? なり手不足深刻… 難しい選択

神奈川県山北町に設置された町議選のポスター掲示場。用意された21人分の枠は、どこまで埋まるか=8日

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 地方議会で議員のなり手不足が深刻だ。定数が減っているにもかかわらず、前回二〇一五年の統一選では、関東一都六県で十の町村議選が無投票だった。最も暮らしに身近な政治の先細りは食い止められるのか。六百八十九の市区町村議選が行われる統一選後半戦を前に、現場の声を聞いた。

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◆神奈川・山北町

 「ちゃんと選挙ができるだろうか」

 神奈川県山北町議会で議長経験のある六十代の町議は、自分の選挙準備とは別のところで気をもむ。四年前の統一選で行われた前回町議選は、定数と同じ十四人しか候補者が立たず、二十四年ぶりに無投票になってしまった。

 十四人のうち九人が七十代。一年ほど前から「引退したいが後継者がいない」と嘆きを聞くようになった。「議会が成り立たなくなる」と危機感を覚え、議会報告会などの折に住民へ立候補を呼び掛けてきた。

 反応は鈍い。今月初めの立候補予定者への事前審査に出席した人は十五人。迷っていそうな人もいる。一人でも出馬を見送れば、また無投票だ。

 東京から西へ八十キロ、丹沢山地に囲まれる山北町は、ミカンや茶の栽培、林業で潤ってきた。だが最近は若い世代が流出し、人口はピークより六千人以上減って一万三百人ほどに。

 この町議は「衰退する町をどう立て直すか、議会は町民に示せなかった。頼りなさが議員のなり手不足の一因」と責任を感じている。四十代の町議は「月二十五万五千円の議員報酬だけでは暮らせず、パート勤めもしている。子育て世代は立候補しにくい」と別の事情も話す。

 無投票を受け、議会では定数を二減するか、昨秋まで議論してきた。住民も削減を求める請願を提出。代表の高橋庸祐さん(71)は「選挙の得票数は現職の通信簿でもある。無投票では評価を付けられない」と指摘する。

 だが、議会は定数維持を決めた。山間部が地盤の町議らから「人口が少ない地区には、地元の声を町政に届ける議員が必要」と反対意見が上がったためだ。

◆群馬・昭和村

 「議員を今より減らすことはできない」。昨年十一月の群馬県昭和村議選で初めて立候補し、無投票当選した阿部孝司さん(67)も実感する。この選挙では、定数一二に対し九人しか立候補せず、今年一月の再選挙でようやく欠員を埋められた経緯がある。

 リンゴ農家の阿部さんにも、政治家になる気はなかった。昨年十一月の告示の日、自宅で昼食を食べながら、ひどい定数割れになりそうだという話題になり、妻(60)が「お父さんが出れば?」と言い出した。阿部さんは取り合わず畑へ出たが、収穫を終えて帰宅すると、妻が役場からもらってきた立候補届の書類がテーブルに置かれていた。

 驚く一方、「世話になった村に貢献できるかも」という思いもわき、締め切り直前に届け出た。

 村議になってみると、やりがいはあるものの想像以上に忙しい。地域行事への参加や膨大な予算資料の読み込み。審議は教育や産業など多岐にわたる。「無投票はよくないが、これ以上議員を減らせば一人当たりの仕事がさらに増え、手が回らなくなる」と訴える。

 地域の民主主義や自治を守るために、定数は減らすべきか、維持するべきか。難しい選択を迫られている。(この連載は山田祐一郎、市川勘太郎、渡辺聖子、梅野光春が担当します)

◆条例で定数制定

 都道府県議会や市区町村議会の議員定数は、地方自治法で「条例で定める」と規定されている。

 かつては「人口15万〜20万未満は定数40」のように、同法が人口ごとに決めていた。しかし1999年、地方分権改革の一環として、人口による定数は上限とし、各自治体が条例で減らせるよう法改正された。

 さらに2011年の改正では上限も撤廃され、定数は自治体が独自に定めるものになった。

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