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千葉

1票の現場から 耐震、かさ上げ国直轄で 老朽化進む堤防、水門

2019年7月9日 紙面から

住民団体による決起大会では、国に直轄事業化を求める決議が採択された

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 「あと二十〜三十センチで越水していた」。船橋市の船橋漁港を取り囲む堤防や、港に流れ込む海老川を隔てる海老川水門を眺めながら、近くに住む内海進三郎さん(63)は「あの日」を思い出していた。

 二〇一一年三月の東日本大震災。船橋市臨海部にも二メートル余の津波が押し寄せ、船橋漁港では漁船二隻が転覆。海老川水門も被害を受けた。「堤防の陸側を歩いたら、塩や泥の混じった臭いがした。もし、海水が堤防を越えていたら−と考えるとぞっとする」と内海さん。一帯では液状化被害も広がっていた。

 同所の海老川水門と排水機場は一九六八年に完成した。隣接する護岸施設も近年、老朽化が目立っており、内海さんら地元住民は再整備や耐震化に向けた要望活動を始めた。

 地元・湊町地域の自治会を中心に、住民組織「船橋地区海岸保全施設耐震化促進協議会」(大塚健吉会長)を今年二月に結成。商工会議所や漁協、JAなども協力団体に名を連ねた。協議会役員と松戸徹市長らは三月、菅義偉内閣官房長官と国土交通省局長に直接要望した。

 昨年十一月には、県が東京湾沿岸部で起こりうる最大規模の高潮浸水の被害想定を公表。浦安市から館山市にかけて最高で六〜二・五メートルの高潮に襲われることが明らかになった。船橋は五・七メートル。このため協議会は、堤防や護岸のかさ上げも国や河川管理者である県に求めることにした。

 協議会などによると、一帯は海抜ゼロメートル地帯が広がっているため、高潮や津波に襲われると、JR船橋駅や西船橋駅近くまで浸水する恐れがある。

 ◇      

 「大規模災害への備えを広く訴えたい」。そんな思いから協議会は六月、船橋市民文化ホールで再整備と耐震化、かさ上げを求めるシンポジウムと決起大会を開催。あいにくの雨となったが、市民約九百人が足を運んだ。

 決起大会では、海老川水門と排水機場、西側にある日の出護岸などを、国の直轄事業として行うよう求める決議を採択。ある出席者は「このエリアだけでも、事業費は約百五十億円に上るのでは」と試算した。

 松戸市長もマイクを握り、一帯には市役所や市消防本部をはじめ、東京電力、NTT、郵便局などの施設が集積しており、国道14号など幹線交通網が通っていることから「もし高潮などに襲われたら、広域的に大きな被害が出る」と危機感をあらわにした。

 豪雨、台風、地震といった自然災害が近年増えてることから、政府は昨年十二月に「防災・減災、国土強靱(きょうじん)化のための三カ年緊急対策」を閣議決定。港湾をはじめ、道路や鉄道などの社会資本整備に力を入れる方針を打ち出している。

 こうした動きをにらみながら、協議会は「住民の命と財産を守ってほしい」として今後、署名活動を行うとともに、今秋には署名を添えて再度、国へ要望することにしている。 (保母哲)

老朽化が目立つ船橋漁港の海老川水門を指差す内海進三郎さん=いずれも船橋市で

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