• 東京新聞ウェブ

千葉

1票の現場から 専門性向上、国支援を 連携不足の児相、学校、警察

2019年7月17日 紙面から

野田市要対協で使用される要保護児童の支援計画表。事件後、関係機関の役割分担の内容を細かく記載するようになった=野田市役所で

写真

 野田市の小学四年、栗原心愛(みあ)さん=当時(10)=が一月、自宅で死亡した虐待事件では、児童相談所や学校の連携不足が浮き彫りになった。自治体ごとに関係機関のネットワーク「要保護児童対策地域協議会」(要対協)が設置されていたが、心愛さんの虐待に関わる重要な情報が十分に共有されなかった。事件を教訓に、より強固な連携体制を築けるのか、国や自治体は見直しを迫られている。

 県内では、全市町村が要対協を設置。一〜二カ月に一回程度開かれる実務者会議では自治体の児童福祉部門や教育委員会、児相、警察署など関係者が集まる。虐待などの疑いがある「要保護児童」らのリストが配られ、援助方針を話し合う。だが、人口が多い地域ではリストが膨大で、一〜二時間の会議中に十分な協議ができないのが現状だ。

 心愛さんの事件で、野田市要対協は二〇一七年十一月、父親からの虐待被害を訴えた小学校のアンケートから、要保護児童として登録。だが、一八年一月、市教委が父親にアンケートのコピーを手渡した。虐待再発を招きかねない行為にもかかわらず、この件は後の実務者会議で、児童のリストの横に短く記載されただけ。当時の対象児童は約百三十人で、市教委から口頭報告はなく、リスクに気付く出席者はいなかった。

 事件を受け、野田市要対協は一回二時間の実務者会議を、六時間に拡大。虐待リスクが高い児童については、個別にリスクの変化や、各機関の役割分担を詳細に記した支援計画表を作成するようになった。

 要保護児童を巡る現状について、県内の児相関係者は「重要な案件は別に時間を取るなどの工夫が必要だが、人口の多い自治体では、現状の人員で情報共有するには限界が見えてきている」とため息をつく。

 情報が行き届いても、具体的支援にどう結び付けるか。東京経営短期大の小木曽宏教授(児童福祉学)は、「形だけ情報共有するのではなく、どんなリスクが潜んでいるか気付けるよう、各機関が想像力を持たなければ何も変わらない」と指摘する。

 要対協の質を高めるため、国も事務局への児童福祉など専門職配置を促しているが、自治体の規模によっては対応が難しい。小木曽教授は「専門性の向上を求めるなら、財政面でもっと国の支援が必要だ」と注文を付ける。本来、児童への支援内容は、成長や家庭状況への変化に合わせて随時見直すことが欠かせない。「継続的な支援体制が整わない限り、いつ再び虐待事件が起きてもおかしくない」と警鐘を鳴らす。 (太田理英子)

<要保護児童対策地域協議会> 虐待などを理由に保護や支援が必要な児童、特定妊婦をサポートする関係機関によるネットワーク。市町村ごとに設置。代表者会議、実務者会議、個別ケース検討会議の3層で構成される。児童相談所や教育委員会、警察などの関係者が情報共有、役割分担をして支援方針を決める。2004年の児童福祉法改正で設置が定められた。

「継続的に支援できる体制が必要」と語る小木曽宏教授=市川市内で

写真

主な政党の公約

新聞購読のご案内