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1票の現場から 「老後の備え夢のまた夢」 中高年のひきこもり対策 対応する相談員が不足

2019年7月18日 紙面から

千葉市ひきこもり地域支援センターの事務室。相談者への支援のため相談員は外出していることが多い=同市美浜区で

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 少子高齢化が進む中、高齢の親が中高年の子どもを世話する「八〇五〇問題」とともに、中高年のひきこもりへの問題意識が高まっている。金融庁金融審議会の報告書で「夫婦で二千万円の蓄えが必要」と試算されるなど、当事者や家族は老後への不安が尽きない。

 「病気で仕事ができなくなるなんて、思ってもいなかった」。六月下旬、県内のひきこもり支援団体に相談に訪れた男性(38)は、ため息をついた。

 派遣社員として勤務していた五〜六年前、男性は甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「バセドー病」と診断された。治療の影響で疲れやすい体質になり、遠方勤務や体力を使う作業が困難なため、仕事はなかなか見つからず、ほとんど家から出ることがないという。

 七十代の両親と同居する男性は、生活費を両親の年金に頼り、将来に不安は尽きない。「両親のどちらかが倒れたら…。老後に備えた貯金なんて夢のまた夢」

 川崎市で五月下旬にあった通り魔事件では、自殺した容疑者の五十代の男が長年ひきこもりだったと報道された。事件後、県内でも一時、相談が増加。千葉市ひきこもり地域支援センターの担当者によると、相談者からは「容疑者と同一視しないでほしい」と、事件とひきこもりが結びつけられることへの不安の声が聞かれるという。

 六月下旬、同センターがひきこもり当事者や家族への支援を長年続ける精神科医の白石弘巳さん(65)の講演会を開いたところ、定員を大幅に上回る約百二十人が来場した。質疑応答では三十〜四十代から、「両親が年老いる中、老後が不安でならない」などの声が上がった。

 「川崎の事件では周囲が解決を急ぐあまり、圧迫感を与えすぎたのではないか。ひきこもりの理由も支援の仕方も千差万別だ」と白石さんは指摘する。

 同センターによると、二〇一八年度は二百七件の新規相談があり、年代別では十代が三十人、二十代が四十五人に対し、三十代は四十人、四十代は四十二人、五十代以上は二十人(年代不明は三十人)。担当者は「若者以外の相談が年々増えている印象がある」と話す。継続案件も百七十件あり、非常勤を含め相談員八人体制で対応。コミュニケーションが苦手な相談者も多いが、相談員は「時間をかけたくても相談員が全然足りない」と嘆く。

 参院選投開票を前に、ひきこもり当事者として県内の支援団体を利用する三十代後半の無職男性は、四十歳を前に語った。「候補者は選挙に勝つための政策を訴えるばかりではなく、社会の日の当たらない部分にもしっかり目を向けてほしい」 (山口登史)

<ひきこもり> 内閣府は「半年以上にわたり家族以外とほとんど交流せず、趣味の用事やコンビニに行く以外に自宅から出ない人」と定義。3月に公表した推計では40〜64歳の中高年は61万3000人に上る。若年層(15〜39歳、2015年調査)の54万1000人を上回り、高年齢化が進んでいる。

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