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茨城

<問う@いばらき>(上)外国人「特定技能制度」 農家、導入へ動き鈍く

2019年7月17日 紙面から

芝生の収穫作業をするカンボジア人の技能実習生=つくば市で

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 参院選は投開票(二十一日)に向け、終盤戦に入ってきた。立候補した五人が二議席を巡り、舌戦を繰り広げる。ただ、有権者から見れば、候補者の当選がゴールではなく、候補者が当選後、何をするかが重要だ。県内で問われている課題や、参議院議員に問われる仕事を探った。

 芝生の生産量が全国一位のつくば市の郊外。カンボジア人男性の技能実習生二人が、畑で収穫した芝生を黙々と積み上げていく。近くの畑でも、別の実習生二人が同じ作業をしていた。

 四人を受け入れ、数十ヘクタールで芝生を栽培している八十代の男性は「この地域で実習生を使っている芝生農家は多い」と話す。

 男性によると、約十五年前から実習生を受け入れ始め、自宅敷地内に住居も建てた。現在、県内の最低賃金の時給八百二十二円に基づき、月額約十四万五千円を支払う。「これでは、日本人の若い人はやってくれない。だから技能実習を続けるしかない」という。

 国は、地方を中心に日本人労働者が不足していることを背景に、外国人を幅広い職種で受け入れるため、入管難民法を改正し四月から新たな在留資格の特定技能制度を導入した。

 今後、外国人労働者を受け入れる機会が増えそうだが、芝生農家の男性は、新制度を「利用する気はない」と言い切った。

 技能実習制度の劣悪な労働環境が問題になったため、新制度では、報酬額を日本人と同等以上にすると明記されたからだ。「その条件なら、時給なら千円以上。それでは経営が成り立たない」とぼやく。

 受け入れ窓口になった監理団体の男性運営者も「農家から新制度の問い合わせはない。みんな様子見の状態」と現状を語る。

 県内では、中国人やベトナム人ら約六千人の実習生が農業に従事し、農家を支える。大半が鹿行と県西地区で、全国的にも技能実習が盛んな地域とされる。

 この運営者は「実習生は以前から実際は労働者。農家にとって新制度による大きな変化は、賃金が上がるうえ、待遇次第で辞められてしまうこと。あえて新制度に移行する必要はないだろう」と推し量る。

 一方で「今後も労働力として頼る外国人に、喜んで働いてもらえるようにしないといけない。農家がもっと経営力を高めれば、賃金は上げられる」(JA関係者)との指摘もある。

 新制度は、送り出し国との協力態勢など、準備が遅れたままスタートした。県内では農家の導入への動きは鈍く、県内JAからも「賃金の相場だけでなく、社会保険や生活支援など、運用の細かい点はまだ分からないことだらけ」と戸惑いの声が上がる。

 外国人労働者の問題は、参院選の主要な争点にはなっていないが、農業が主要産業の本県にとっては死活問題だ。JAの担当者は「選挙向けに制度を間に合わせたのだろうが、今のままでは農家も外国人も安心して利用できない。もう少し制度を整えなければ」と、改善を求めた。 (宮本隆康)

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