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茨城

<問う@いばらき>(中)医師不足 危うい地域医療現場

2019年7月18日 紙面から

昨年9月に分娩の取り扱いをやめた岩佐さん。今は外来診療のみだという=大子町で

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 昨夏のことだ。大子町で産婦人科医院を経営する岩佐秀一さん(61)は、突然陣痛が始まった妊娠八カ月の女性を、水戸市の病院へ救急車で送ろうとしていた。早産で逆子。搬送に一時間はかかるが、新生児の処置とともに妊婦のケアも心配だからだ。

 車内での出産になる可能性も大きい。救急隊はより早いドクターヘリを提案してきた。しかし、要請のやりとりの間に待ったなしの状況になり、自身の医院で赤ちゃんを取り上げた。幸い経過は良好だ。

 「ここから水戸まで産科はない。近くに連携できる病院があれば、と感じることは何度もありました」

 その一件から程なくして、岩佐さんは分娩(ぶんべん)の取り扱いをやめた。理由は分娩数の減少が大きいが、リスクを抱える妊婦が増え、スタッフを含め急を要する事態の対応が難しくなってきたこともある。

 都市部でなくても産科ができることを示したい−。そんな思いで、水戸の病院から出身地の大子に戻ってきただけに、「心苦しい」と残念がる。これで、人口約一万六千人の町で分娩できる病院はなくなった。

 厚生労働省の二〇一六年の調査で、本県は人口十万人当たりの医師数が全国四十六位。〇二年から定位置だ。県によると、全国平均にするまでには、あと千八百人必要という。

 小児科や産婦人科医などは特に深刻で、県は「周産期母子医療センター」を休止中の日立製作所日立総合病院(日立市)をはじめ、県内五つの医療機関・診療科の医師確保を最優先に展開している。

 医師不足解消の特効薬は医師を増やすことだ。県は県立高校五校への医学コース設置の取り組みを始めている。医師の志願者を増やすことや、子どもの教育環境に関心の高い県出身の医師にUターンを促す意味でも有効な施策になりそうだが、結果が出るのはこれからになる。

 一方で、奨学金を貸与する代わりに、卒業後は一定期間地域医療に携わってもらう医学部の地域枠などにより、二六年には四百人超の若手医師が県内で働く見通しとなり、明るい兆しも見える。

 県医師会の諸岡信裕会長は、準備から医師を育てるまでに相当の年数がかかるとして医大新設には否定的な一方、「適正規模になるまで、一時的に国が医学部の定員増を認めることは可能では」と指摘する。

 医師不足から、医師が長時間労働になったり、高齢でも辞められなかったりする状況もあり、地域医療の現場は危うい。国が後押しする実効性のある施策はまだまだ必要で、そこには実情を知る地方選出の参院議員の役割がある。 (鈴木学)

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