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<現場から>(1)消費増税 国の景気対策、店主ら困惑

2019年7月11日 紙面から

店でキャッシュレス決済の端末を操作する湯浅さん=藤沢市で

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 観光客でにぎわう藤沢市江の島にある老舗和菓子店「紀の国屋本店」の湯浅裕一(ひろかず)さん(68)は四月、クレジットカードや電子マネー、QRコードに対応するキャッシュレス決済を導入した。

 政府は十月に消費税率を10%へ引き上げるのに伴い、キャッシュレスで買い物をした場合に期間限定でポイントを還元する景気対策を打ち出した。湯浅さんは「百円、二百円でもカードを使う時代。若い人は敏感だし」と一定の効果に期待する。

 とはいえ、消費増税自体は納得し切れない。「一割は大きい。消費が冷えないか。財政が厳しいとしても、国はもっと工夫できないのか」

 同市を中心に九カ所でラーメン店「古久家」などを経営する小林剛輔(ごうすけ)さん(47)は、2%の引き上げを「単価が小さいのでそれほど影響はない」とみている。ただ、ポイント還元とともに導入される軽減税率には困った様子だ。

 店内での飲食は10%、持ち帰り品は8%。仕入れ品はほぼ8%だが、酒類は10%になる。痛いのは経理システムを全面的に改修する費用。担当の丹下良平さん(64)は「回収するのに、いずれ値上げを考えざるを得ない」と漏らす。

 「消費税に大反対」。同市の飲食店「しぇんろん」の羽鳥真理子さん(59)は、8%になって客が減った二〇一四年当時を思い出す。「それに、民間が進めるならまだしも、増税に絡めて、店が手数料を払うキャッシュレス決済を国が誘導するのはおかしい」と憤る。

 国は増税による増収分を幼児教育・保育の無償化に充てるとしている。だが、茅ケ崎市で四歳と一歳の娘二人を育てている車田明里さん(30)の表情は曇る。

 長女が通う藤沢市の施設は認可外で、仕事をしていない車田さんは無償化の対象にならない。また、現在は茅ケ崎市から就園奨励費補助金が支給されているが、市は十月以降、同様の補助を続けるか決めていない。もし何も支給されなければ、生活費の負担増に加えて打撃だ。

 「他のお母さんから、前回の消費増税の時に便乗なのか、おむつが増税分以上に値上がりしたケースがあったと聞いた」。軽減税率にしても、持ち帰る方が安ければ、ごみが増えないかと気になる。

 羽鳥さんと車田さんは「社会保障や幼児教育の財源が必要なら、法人税や防衛費の見直しなどを先にすべきだ」と声をそろえる。小林さんは言う。「頑張りやすい体制を整えてほしい。そうすれば税収は増える」 (吉岡潤)

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 二十一日の参院選投開票日まで一週間余り。県内のさまざまな課題の現場をリポートする。

<消費税> 1989年4月に税率3%でスタート。97年4月に5%、2014年4月に8%へ引き上げられた。同11月、15年10月に予定していた10%への引き上げを17年4月に先送りし、16年6月にさらに2年半延期した。今年10月の引き上げでは低所得層の負担軽減として、酒類・外食を除く飲食料品と新聞の税率を8%に据え置く。景気対策として、来年6月までキャッシュレス決済なら5%を消費者に還元する。

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