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<現場から>(2)幼保無償化 保活の厳しさ変わらず

2019年7月12日 紙面から

大型マンションに住む子育て世帯が増えているJR新川崎駅周辺=川崎市幸区で

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 「保育所探しが厳しいと聞いていたけれど、これほどとは思わなかった」。川崎市幸区の主婦(38)はため息交じりに話した。長女(1つ)を保育施設に預けて働こうと思っているが、めどが立たない。

 無職の場合、認可保育所に入れるかどうか考慮される点数が低くなる。仕事は長女が生まれる前に辞めた。相談に行った区役所で職員から「絶望的です」と言われ、入所希望を出す気もうせた。「失敗だったかもしれない。実家が近いし便利だから川崎に引っ越したが」

 市によると、市内の待機児童十四人(四月一日時点)のうち八人が幸区。ただ、この主婦のように入所希望を出していない人は含まれない。実質的な待機児童は、数字以上とみられる。

 区内では子育て世帯が急増した。背景には、JR新川崎駅前を中心にタワーマンションの建設が進んだことがある。

 市は保育施設を急ピッチで整備してきた。前回参院選があった二〇一六年度の保育事業予算は四百七十七億円。本年度は六百九十五億円と一・五倍近くにふくらんだ。それでも入所希望者の増加に追いつかない。県内全体でも、待機児童は四百九十七人(一六年度)から七百五十人と、一・五倍に増えた。

 十月に幼保無償化が実施されると、幼児教育・保育費は、三〜五歳児は全世帯が、ゼロ〜二歳児は所得基準を下回る世帯が無料になる。しかし幸区の主婦は「施設に入れなければ対象にならず、今の自分には意味がない」と冷ややか。

 幼保無償化によって、子どもを施設に入れずに育ててきた世帯が入所希望を出し、競争が激しくなる可能性もある。市の担当者は「保育の需要をどの程度、掘り起こすことになるのか、まだ予測できていない」と打ち明けた。

 幸区の主婦は、認可保育所はおろか、自宅近くの認可外施設にも空きを見つけることができない。「無償化よりも、保育施設の整備や保育士の待遇改善に予算を使うべきなんじゃないか」。訴えは切実だ。

 前回の参院選前、保活に悩む母親が書いたとされる「保育園落ちた 日本死ね」と題した匿名ブログが国会で取り上げられた。主婦は同じ状況に置かれて初めてブログに共感した。と同時に、三年たって状況が改善しないことに暗澹(あんたん)たる気持ちが強まっている。  (大平樹)

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