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<現場から>(4)外国人材 見切り発車、企業は様子見

2019年7月15日 紙面から

金型部品の製作に携わるベトナム人技能実習生トンさん(左)とリード技研社長の小川さん=川崎市多摩区で

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 「この会社に来られてよかった。技術も日本語も勉強できるし、みんなすごく優しいし」。青い作業服に身を包んだグエン・スアン・トンさん(28)は日本語でよどみなく語って、マスクの下のほおを緩めた。

 川崎市多摩区のリード技研。トンさんがベトナム人の技能実習生として、金型部品を精密に仕上げる研磨などの技術を学んで三年になる。同社はこれまでに、トンさんを含めて八人の実習生を受け入れてきた。

 「まじめで必死。二十〜六十代の社員にも、いい刺激になっている」と社長の小川登(みのる)さん(69)。ベトナムに合弁会社をつくり、実習生が母国で技術を生かせる仕組みも整えた。

 こうした技能実習とは別に四月、外国人労働者の受け入れ拡大を狙って「特定技能」という新たな在留資格ができた。しかし、昨年十二月の改正法成立で急造された制度のため、準備が追いついていない。

 悪質ブローカーの排除、生活支援といった外国人労働者を保護する仕組みの実効性も、企業側の負担も未知数の部分が多い。小川さんは「この制度を信用していいのか、まだ見極めがつかない」と口にした。

 川崎信用金庫が先月実施した中小企業調査でも、企業側の慎重姿勢が浮き彫りになった。回答した川崎市内の五百二社のうち、六割が「人手不足」とした一方、外国人を「増やす方針」としたのは12%だった。

 実は当面、特定技能の外国人は半数程度が技能実習からの移行者が占めると想定されていることから、「実習制度を巡る悲劇が繰り返されるのではないか」との懸念も出ている。

 「『妊娠が発覚したら強制帰国』と説明されていた。できるだけ働いて、実習のために両親が支払ったお金を返したかった」。自宅で出産した乳児を川崎市内の民家に置き去りにしたとして、五月に執行猶予付き判決を受けた中国人実習生は裁判でそう語った。

 組合員六百八十人のうち外国人が八割を占める労働組合、神奈川シティユニオン(川崎市幸区)によると、この実習生を日本に送り出した中国の業者は多額の違約金、恋愛・妊娠禁止などの不当な内容を契約書に盛り込んでいた。

 こうした事例は氷山の一角という。「ひどいですよ。がんじがらめなんです。だから安価な労働力として酷使されても、我慢するしかない」と執行委員長の村山敏(さとし)さん(70)は言う。

 川崎市内で十二日にあった外国人材の活用戦略セミナー。百席程度の会場がすべて埋まり、関心の高さを裏付けた。事例発表したリード技研の小川さんは、こう念を押した。

 「外国人労働者はみんな、人間としてやってくるんです。それを忘れないでください」 (石川修巳)

<特定技能> 1号と熟練技能が必要な業務に就く2号の2種類があり、当面は介護業、金属プレス加工などの素形材産業、建設業など14業種を対象に、1号の外国人を受け入れる。在留期間は最長5年、家族帯同は不可。3年以上の実務経験がある技能実習生は無試験で1号に移行でき、在留期間が技能実習の最長5年に加え、合わせて最長10年になる。

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