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<現場から>(5)カジノを含むIR 依存症者広がりに懸念

2019年7月17日 紙面から

依存症の治療法が書かれた本を前に「ギャンブルは人生を台無しにする」と語る会社員の男性=横浜市旭区で

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 「私は二十年を棒に振った。カジノができれば同じ経験をする人が増える」。かつてギャンブル依存症だった会社員の男性(50)=横浜市旭区=は、市が誘致を検討するカジノを含む統合型リゾート(IR)に、こう懸念を示した。

 十九歳の時に初めてパチンコ店を訪れ、大勝ちした体験からのめり込んだ。二十六歳で結婚した時、貯金はほぼゼロ。小遣いがなくなると消費者金融で借り、妻には「残業」とうそをついて店に足を運んだ。

 妻に愛想を尽かされ離婚し、やがて仕事が手につかなくなり会社を退職。限度額に達して借金ができず、パチンコに行けなくなると精神のバランスを崩しうつ病を発症した。二〇〇八年、自殺しようと鉄橋から川を見下ろしているうち「恥も外聞も捨てて依存症を治す」と思い至った。

 ギャンブル依存症者の治療を手掛ける施設「ハウスホープヒル」=旭区=に入所し、他の依存症者や主宰者との対話を通して自身を見つめ直すグループセラピーを受けた。三年後に「もう大丈夫」と感じて退所。今は土木会社で営業の仕事をしている。

 IRを成長戦略の柱に位置づける政府は、全国で最大三カ所、第一弾は二〇年代半ばの開業を想定。横浜市は「白紙の状態」との立場を崩さず先行きは見通せないものの、経済の活性化を期待してカジノに賛成する声も少なくない。十二の事業者・グループは、山下ふ頭(中区)での開業を想定し、年七千七百億〜一兆六千五百億円の経済効果があるとの試算を含めた提案をまとめている。

 依存症対策が考えられていないわけではない。IR整備法は日本人客のカジノ入場は週三回、月十回までとし、入場料は六千円と規定。事業者側は、家族が求めた場合は入場させないといった対策を掲げる。

 どこにでもあって百円から遊べるパチンコと、入場に一定の制限があるカジノは違うとの意見もある。ただ、多くの依存症者を見てきたホープヒルの町田政明代表(66)は「賭け金が高くなればなるほど高揚感が増してはまりやすい。パチンコなどとは別の層に依存症者が広がる」と指摘する。

 町田さんによれば、ホープヒルに来る依存症者のうち七割はギャンブルをやめられないという。会社員の男性はこんな見方を示す。「入場規制は意味がない。依存症者はうそをついたり、人を裏切ったりしてでも金を工面してギャンブルに行く」 (鈴木弘人)

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