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<現場から>(6)ヘイトスピーチ 根絶へ対応強化求める声

2019年7月18日 紙面から

差別反対のプラカードを掲げて抗議する市民ら=5月12日、川崎市のJR川崎駅前で

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 「国に先行して私たちの川崎が力強く歩みを進めたことを皆さんと喜びたい」

 四日夜、川崎市であったヘイトスピーチ解消に取り組む市民団体の集会で、在日コリアン三世の崔江以子(チェカンイジャ)さん(46)=同市川崎区=は、こう強調した。

 市は六月、ヘイトスピーチ(憎悪表現)に対する刑事罰を盛り込んだ全国初の差別禁止条例の素案を公表。被害を訴え、条例制定を求めてきた崔さんは「これまでの苦しさをしのぐうれしさを覚えている。あの時に感じた痛みがやっと回復に向かう」と話した。

 「あの時」とは、二〇一五年十一月。在日コリアンら外国にルーツのある人が多く暮らす同区桜本地区に、デモ隊が「朝鮮人をたたき出せ」「空気を吸うな」などと迫ってきたという。この二年ほど前から川崎駅周辺で同様のデモがあったが、「私たちの生活の場に踏み込んできて、恐怖と絶望感に襲われた」と崔さんは当時を振り返る。

 ヘイトスピーチは川崎に限らず、一三年ごろから東京・新大久保や大阪・鶴橋のコリアンタウンなど各地で激化。国も対応に乗り出し、一六年六月に対策法ができた。ただ、憲法が保障する表現の自由との兼ね合いから、禁止規定や罰則はなく理念法にとどまる。

 対策法成立を受け、デモを禁じる仮処分が出され、市も公園の使用を認めないなど桜本周辺でのデモはなくなった。しかし、その後も外国人の排斥をあおるような街宣などはあるという。インターネットの書き込みも深刻で、崔さんへの差別的な投稿は後を絶たない。川崎の条例素案ではネットは規制の対象外だ。

 選挙に名を借りたヘイトも指摘される。反差別を掲げる市民団体などによると、今春の統一地方選でも川崎と相模原の市議選で、一部陣営から差別的発言があったという。相模原市の本村賢太郎市長は六月、「統一選で市内でもヘイト的発言が多くあった」とし「罰則等も含めた条例化を検討したい」と述べた。崔さんは「ヘイト根絶に向け各地で同じような動きが広がれば、国の対応強化の後押しになるはず」と期待する。

 ヘイト問題に詳しい師岡康子弁護士は対策法で一定の効果はあったと認めつつ「街宣やネット、選挙などでのヘイトは、禁止規定や罰則がないと止められないのは明らか」と指摘。表現の自由の観点から規制に慎重な声もあることを踏まえた上で、「いつまで被害者を苦しませるのか。対策法は強制力がなく、ヘイトも脅迫や名誉毀損(きそん)と同様、表現により他者の人権を侵す犯罪の一類型として認めるべきだ」と訴えた。 (曽田晋太郎)

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