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埼玉

改憲議論の足元で(1)「9条変えぬ」主張に苦心 大学生の架空討論会

2019年7月13日 紙面から

学生たちが架空の市民団体を演じて9条改憲の是非などを議論した討論会。手前にはメディア役が並び、両陣営に質問もした=さいたま市桜区の埼玉大で

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 憲法九条を変えるべきか、変えないべきか−。学生演じる架空の市民団体が改憲を巡って議論を交わす討論会が三日、埼玉大(さいたま市桜区)教養学部のゼミで開かれた。学生たちは、テレビ中継されているとの設定で、設置されたビデオカメラの前で向かい合い、口角泡を飛ばした。

 「武力を用いた国際貢献は日本でなくてもできる。それよりも九条を維持し、差別や貧困など紛争の根本的な問題の解決に力を入れるべきだ」。九条を変えない立場の市民団体「翼希(たすき)会」は、そう主張した。

 彼らは集団的自衛権の行使にも反対。いたずらに米国に肩入れすると他の国との関係が悪化するとし、多くの国と友好関係を築いて国際社会での調停役に徹するべきだと訴える。

 対する「奏明(かなめ)の会」は九条改憲派。「九条を変え、日米同盟ではお互いに助け合える関係をつくっていく」と力を込める。彼らが書いた改憲草案では、九条がある第二章を「戦争の放棄」から「安全保障」に改め、自衛軍の保持や集団的自衛権の行使を明記した。

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 二年ごとに三カ月かけて実施する恒例の授業。どちらの団体も何らかの「改憲」はしなくてはならず、「討論会」や「記者会見」を繰り返しながら草案の質を高めていく。片方の陣営だけに与えられる制約が「九条は変えない」だ。

 ゼミを指導する平林紀子教授(政治コミュニケーション)は「毎回、九条を変えない側の方が苦労する」と明かす。「変える」側は他国の脅威などを挙げて理由を説明しやすい。一方の「変えない」側は説得力を持たせるのに難航する。

 「変えない」側のリーダー役の海野颯(うみのはやと)さん(21)=三年=に話を聞くと「こっちは大変って聞いてたので、本当は変える方に行きたかったんですけどね」と苦笑い。インターネットで調べても、納得できる護憲派の主張はあまり見つからないという。

 苦労しながら、九条の必要性を話し合い「日本は世界の平和の先駆者になるべきだ」という主張を導き出した。草案では九条は維持しつつ、首相の罷免権や在留外国人の権利などを新たに盛り込んだ。

 ゼミの設定では変えない立場の海野さんだが「正直、自衛隊を軍に変えた方が良いと思うこともある」とこぼす。現実の護憲派の主張に違和感もある。「『戦争は嫌』とばかり言っている印象。それはどちらの立場も同じなんだから、感情論にならない方が良い」

 九条改憲を目指す側のリーダー役の宮島仙太郎さん(21)=三年=も、ゼミと現実との違いを感じている。自民党が主張する九条への自衛隊明記案には「どっちつかずで意味がないのでは」。思い切った改憲案を打ち出せるゼミでの議論と比較し「それが政治のリアルなのかな」と話す。

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 六月には、トランプ米大統領が日米安全保障条約破棄に言及したと報じられた。平林教授は「大人も迷うような混迷の時代。若い人にはより難しい」と憲法を巡って悩み続ける学生たちに思いを寄せる。

 授業を通じて伝えたいのは「日本の次の姿を自分たちでプランニングすること」だ。政治家任せではなく、より良い方向を自分の頭で考えてほしいと願う。「今の子どもは天下国家を論じない。大胆なプランニングができるのは若い世代の特権だから」

 学生側にも大人への注文がある。両陣営の主張を採点して勝敗を判定する「メディア」役の一人の中沢舜(しゅん)さん(22)=四年=は言う。「こういう議論ってあんまり見ないので、国会でも見てみたい。野党もなぜ九条を変えなくていいのかの理由をもっと明確に示してほしい」

 今年の勝敗が決まるのは今月末。これまでは九条を変えない側の勝率が高いとか。果たして結果は…。

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 二十一日投開票の参院選では、改憲勢力が三分の二以上の議席を維持するかが大きな争点の一つ。各候補が論戦を続ける中、市民は憲法に関して何を思うのか。県内の動きを追った。 (この連載は井上峻輔が担当します)

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