改憲議論の足元で(3)基地を自分たちの問題に 沖縄から「引き取り」運動
2019年7月15日 紙面から
「沖縄に応答する会@埼玉」が実施したシール投票。沖縄の米軍基地の埼玉県内への移転の是非などを聞いた=JR浦和駅前で |
「沖縄県の基地負担を平等に分けませんか?」
六月二十九日のJR浦和駅前。雨の中、「沖縄に応答する会@埼玉」事務局長の山田ちづこさん(69)が声を上げた。傍らにはシール投票のボード。二つの問いを通行人に投げ掛ける。
一つは「辺野古基地建設に賛成か反対か」。そして、もう一つ。「沖縄の米軍基地を埼玉にも移すことに賛成か反対か」
沖縄出身の山田さんは力を込める。「日本の米軍基地の七割以上が沖縄にある。一部でも負担を分担すべきではないでしょうか」
足を止める人の反応はさまざまだ。さいたま市内に住む女性(75)は「どこかに基地がないと困るけど、ここに来るのは嫌。沖縄の人には『ごめんね』と思うけど…」。移転賛成にシールを貼り「どれだけ引き取れるか分からないが、少しでも議論しないと」と話す男性(76)もいた。
結果は辺野古基地建設は賛成七、反対九十二と大差がついたものの、基地の埼玉移転は賛成四十三、反対四十三で真っ二つに割れた。山田さんは「もう少し移転賛成が多いと期待したんだけど」と話しつつ、「最初は反対と言う人も『沖縄に永遠に基地があってもいいの』と会話を続けると変わってくる」と手応えも感じている。
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沖縄の基地の本土への移転を呼び掛ける「基地引き取り」運動は、二〇一五年に大阪府で始まって以降、各地に広まった。現在は全国十カ所で同様の団体が活動している。
「@埼玉」もその一つ。引き取り運動に取り組む哲学者の高橋哲哉さん=さいたま市在住=の講演を聞いた人々が、今年二月に結成した。
高橋さんの主張はこうだ。「『本土』の人間が日米安保体制の維持を望むなら、米軍基地に伴う負担とリスクは『本土』で負うべきだ。それらを沖縄に負わせて、利益だけを享受することは許されない」
「@埼玉」メンバーの大庭和雄さん(79)は「最初は必ずしもストンと入ってこなかった。私自身も苦渋の選択です」と振り返る。「そもそも日本に米軍基地はいらない」というのが持論。だが「反対と言っているだけでは、沖縄の現状が続くのでは」とも思うようになった。
メンバー内でも思いはさまざまで、有賀敬一さん(66)は「引き取る場所など実現には多くの問題がある。頭の整理が難しいし『引き取る』と大声で言うのは勇気がいる」と明かす。
結果的に、「@埼玉」の名称は「引き取る」ではなく「応答する」にとどめた。まずは「基地問題を自分たちの問題と考えてもらうこと」に力を入れて活動している。
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沖縄と違い全国的にはあまり知られていないが、米軍基地は既に県内にある。
所沢市の所沢通信基地。市中心部にある九十七万平方メートルの広大な敷地には今、連日のように大量のダンプカーが出入りする。
運んでいるのは米軍横田基地(東京都福生市など)での工事で発生した土砂だ。搬入は今年四月に始まり、一年間で三万七千立方メートルの搬入が予定されている。
「基地の土砂は燃料などの流出で汚染されている可能性がある。飛散したらどうするのか」。地元で土砂搬入に反対を続ける杉浦洋一さん(68)は憤る。
基地は通信用のアンテナや倉庫が立つだけで、以前はそれほど注目を集める場所ではなかったという。「敷地の中に人の姿もなかったし、基地の存在を知らない市民もいた」。それが、この一年で変わった。
昨年七月、自宅にいた杉浦さんは独特の重低音が響くのを聞いた。所沢通信基地で初めてのオスプレイの離着陸だった。米軍から市などに事前説明はなく、周辺住民は強く反発した。
それから七カ月後に突然、知らされた土砂の搬入。住民たちの不満や不安は高まり続けている。「このままではアメリカの言いなりで、基地の使い放題が進む」
ここにもまた、「基地返還」を求める声がある。