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埼玉

争点の現場から(上)消費増税 「家計ノート」見つめ、ため息

2019年7月18日 紙面から

自宅の居間で家計ノートをチェックする女性。毎月のカードの利用や公共料金の明細書なども細かく貼り付けている=さいたま市で

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 「秋からはもっと切り詰めないと…」。さいたま市郊外に住む女性(73)は、自宅の居間で定期的に確かめる家計ノートを見つめながら、ため息をついた。

 夫婦で年金生活に入って七年。二年前に嫁いだ娘が家を出てからは月二十二万〜二十三万円の年金だけが頼りだが、毎月の収支はギリギリだ。だから、十月からの消費税増税を前に覚悟を決めている。「旅行や大きな買い物など特別なことはもうできないかも」と。

 消費税は低所得者ほど負担が重くなる逆進性の問題があり、長らく増税論議の課題とされてきた。そこで、今回導入されるのが軽減税率で、食料品などは8%に据え置かれる。その他の2%の増税分は社会保障費に充てられる。「若い世代のことを考えると仕方ない」。この女性が納得する理由だ。

 が、こうも思う。「生活品の増税は庶民にはやはり負担。代わりにぜいたく品の税率を上げるとかしてほしい」。新聞のチラシを小まめにチェックし、百円ショップで買えるものはそこで買う努力を積み重ねてきたが、十月以降はさらにどう工夫するか。女性はノートに貼り付けた領収書を眺めつつ、ひとまず九月までに買いだめできるものに思いを巡らしている。

 消費税の逆進性は、さらに立場の弱い貧困層や生活保護受給者にとって死活問題だ。さいたま市内で貧困支援に取り組むNPO法人ほっとプラスの平田真基(まさき)事務局長によると、今のところ増税に向けた生活相談などはほとんどないが、「低所得者ほど影響が大きいだけに十月以降は確実に相談が増える」と予測する。

 そのため、支援付きアパートなどで四十人余りの生活を支える同NPOでは十月以降、一人一人の生活状況に応じた支援のあり方を特に意識していくつもりだ。平田さんは「金銭管理や計算が苦手な人も多いので、数円から節約できるようにスタッフ間でも意識を共有したい」と意気込む。

 一方、軽減税率の導入では、事業主側の準備不足の問題が横たわる。

 約五万三千の事業者が加入する県商工会連合会では、各地の商工会を通じてレジ改修の補助などに関するセミナーや相談会を開くが、担当者は「まだまだ足りない印象」と漏らす。

 増税後のキャッシュレス決済によるポイント還元の導入などに向けた準備も必要になるため、「今から準備してもスケジュール的には厳しい」と担当者。連合会は、八月二日まで事業者向けに対応を促すラジオCMを集中的に流し、周知に力を入れる。

 増税の是非が改めて問われている消費税。さまざまな議論が交わされる中、市民は「その日」に向けて粛々と備え始めている。 (藤原哲也)

 ◇ 

 参院選の投開票まであとわずか。憲法や年金、外交といった政策課題を巡って各候補の論戦が続くが、生活を営みながら争点の現場で苦悩する県内の有権者たちは何を考えているのか。二回に分けて紹介する。

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