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埼玉

争点の現場から(下)幼児教育・保育無償化 対象外の施設に危機感

2019年7月19日 紙面から

砂場で夢中になって遊ぶシャローム幼児学園の園児たち。ブランコやプールもあり、設備は普通の幼稚園と変わらない=志木市で

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 昼下がりの遊び時間。砂場では園児たちが夢中になって手を動かす。ブランコやジャングルジムからは歓声が上がり、周囲を走り回る子も。見守る先生らも笑顔だ。三〜五歳児の十二人が通う志木市のシャローム幼児学園では、普通の幼稚園らしい風景が広がる。

 だが、ここは学校法人などが運営する正式な幼稚園ではなく「幼稚園類似施設」。十月に消費税の税収増を財源に始まる幼児教育・保育無償化の対象外だ。「普通の幼稚園と変わらないのに対象外と知った時は驚いた」。四歳の娘を通わせる母親は不公平さを憤る。

 県によると、同様の施設は県内に十六カ所。幼稚園なら月額二万五千七百円まで支給されるが、類似施設の利用者約五百人はその恩恵を受けられない。

 教会が運営する同園はクリスチャンでない家庭も幅広く受け入れ、一九七一年の創設以来、約八百人の卒園児を送り出してきた。一人一人を大事に育てる教育方針に魅力を感じ、複数の候補から園を選んだというこの母親は「対象外だと負担は大きく、世間の目も気になる」と悩む。

 そこで、同園は県内の類似施設と連携して署名活動を展開。六月に五千八百八十四筆の署名とともに、無償化と同等の支援を求める要望書を県に提出した。牧師でもある松木充園長は学校法人の認可に必要な広い敷地や資金のハードルが高く、幼稚園への移行は難しいとした上で「最終的には国が動いてくれることを願うしかない」と無償化の範囲拡大に期待を寄せる。

 これまで、所得に応じて負担額に差があった幼稚園や保育園。今回の無償化は高所得層ほど恩恵が大きいことや、認可外保育施設では保育の必要性の有無で対象が分かれ、不公平だといった批判がある。その一方で、無償化を機に利用を希望する世帯の増加が見込まれており、自治体でも対応に追われ始めている。

 四月一日時点の待機児童数が三百九十三人で県内最多のさいたま市。今月上旬までに幼稚園や認可外保育施設に子どもを通わせる保護者に無償化の手続き資料を配ったところ、担当課への問い合わせが急増し、一日三百件に達する日もあった。利用条件などに関する内容が多いという。

 認可保育園の保護者向けの案内はこれからで、十月以降は新規の利用希望者の相談なども急増することが予想される。市保育課の柴山重信課長補佐は「希望者が増えることを見越して対応するしかない。今まで以上に丁寧に話を聞き、その人に合った施設をマッチングしたい」と話す。

 幼保無償化の裏で危機感を募らせる幼稚園類似施設や自治体の関係者たち。本当に必要な子育て支援策のあり方が問われている。 (藤原哲也)

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