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<ファクトチェック 安倍政治の6年半>(1)憲法 要件緩和、教育充実… 変わる改憲項目

2019年6月21日 朝刊

 7月21日投開票が有力視される参院選まで1カ月。安倍晋三首相の政治姿勢も、有権者にとって重要な判断材料だ。第2次安倍政権以降、6年半にわたる首相の発言をファクトチェック(事実確認)する。 (清水俊介)

 「自衛隊に対する、自治体の非協力な対応がある。例えば自衛官の募集。六割以上の自治体から所要の協力が得られていない」

 今年一月の衆院本会議。首相は、自衛隊は災害派遣で自治体を助けているのに冷たい扱いを受けているとして、「終止符を打つためにも、自衛隊の存在を憲法に位置づけることが必要」と訴えた。

 だが、首相の言葉は正確とは言い難い。

 防衛省によると、二〇一七年度、全国千七百四十一市区町村のうち、自衛官適齢者の名簿を作って自衛隊に提出した自治体は36%。一方で、適齢者名簿や住民基本台帳の閲覧・書き写しを自衛隊に認めた自治体も計54%あった。完全拒否したのは1%に満たない。

 ほかにも首相は、自衛隊を明記する必要性を訴えようと、あらゆる理由を総動員してきたが、額面通り受け取れないことが多い。

 有名なのは、自衛官の子どもが「お父さん、憲法違反なの」と涙ながらに尋ねたというエピソード。首相は一七年十月の民放番組で「(自衛官から)直接聞いた」と説明したが、野党は国会で「実話なのか」と追及。首相は一九年二月の衆院予算委員会で「防衛省担当の首相秘書官を通じて伺った」と言い直した。

 首相は「(実話と証明する)資料を出せというのなら出させていただく」とたんかも切ったが、結局、資料は出てこなかった。

 そもそも首相は、二〇年の新憲法施行を目指すとして期限を切る一方、憲法のどこを見直すかという肝心な点で主張を変えてきた。

 一二年末に第二次安倍政権が発足した当初は、衆参両院で三分の二以上の賛成が必要とする改憲要件を緩和する九六条改憲を目標に。ルールを変えるやり方に「裏口入学」と批判が高まり、棚上げした。

 自民党も、現行憲法は世界的に見ても改正しにくいと訴えたが、海外の憲法に詳しい憲法学者は、議会の承認が必要な各国憲法のおよそ四分の三は「三分の二」が改憲要件と指摘する。

 首相はその後、自衛隊明記のほか、教育充実のための改憲も強く主張。改憲で日本維新の会の協力を得るためとみられている。

 二年前の施政方針演説で首相は、江戸時代に土佐藩が、江戸から持ち帰ったハマグリを食べずに放流した結果「今も大きな恵みをもたらしている」として、子孫のための憲法論議を訴えた。演説当時、高知県のハマグリ漁獲量はピーク時の4%弱にすぎず、「大きな恵み」は誇張と言える。

 在任中に自らの手で改憲を成し遂げる意欲が先走り、内容は二の次。首相の改憲論からは哲学が見えてこない。

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