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<くらしデモクラシー> 自民、物議醸す 演説参考資料

2019年6月28日 朝刊

自民党が議員に配布した冊子

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 7月の参院選を前に、自民党本部が党所属の全国会議員に政治活動の「参考資料」として配布した冊子が物議を醸している。野党やメディアを厳しく非難するネット上のニュースサイトのコラムをまとめたものだが、サイトの運営組織や執筆者は不明。出どころ不明の無責任な言説に政権与党がお墨付きを与えている格好で、党内からもいぶかる声が出ている。 (小倉貞俊、宮尾幹成)

冊子に掲載された野党党首のイラスト

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 「フェイク情報が蝕(むしば)むニッポン トンデモ野党とメディアの非常識」と題した冊子はA5判百四十二ページ。編集・発行は「テラスプレス」とあり、前書きによると、同名のインターネットサイトにアップした記事を掲載した。

 関係者によると、党本部が十一日、「報道では語られていない真実を伝える内容。参院選に向けた演説用資料として活用下さい」と記した文書とともに、各議員事務所に二十五部ずつ配った。十部ほどの事務所もあった。

 その直後から話題になり、同党の武井俊輔衆院議員もツイッターで「妙な本(中略)ひいきの引き倒しもいいところです。扱いに困ります」とコメント。

 党職員が事務所に直接届けに来たという自民党の若手議員の一人も「こんな荒唐無稽なもの、選挙には使えないよね」と戸惑いの表情。ページをめくりながら「ほとんど読んでない。このまま捨てるつもり」と話した。

 波紋を広げている内容は「トンデモ野党のご乱心」と題した野党批判、「フェイクこそが本流のメディア」とした新聞批判に、安倍政権をたたえる三部構成。野党党首らを下品に描いたイラストを添え、立憲民主党と国民民主党を「さもしい政党」、共産党を「壮大な虚偽」、社民党を「オワコン(終わったコンテンツ)」と攻撃。安倍政権に批判的な新聞は「事実をねじ曲げた報道」、沖縄・辺野古の米軍新基地建設を問う沖縄の地元紙も「視野狭窄(きょうさく)」などとおとしめる一方、「安倍首相に代わる政治家がいるとは思えない」などと首相を礼賛するコラムを列挙している。

 版元とするテラスプレスのサイトには運営者や所在地などの情報がなく、これらのコラムは誰が何のために発信しているかはまったく明かされていない。

安倍首相のイラスト=いずれも冊子より

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◆党内からも疑問「荒唐無稽、使えない」

 自民党本部は取材に、サイトの運営には「関与していない」と回答。「(サイトは)一年ほど前から、すでに広くネット上で閲覧されている。時々の時局テーマを分かりやすく具体的に数字を示しながら解説し、説得力のある内容」「これらの記事をまとめた冊子があるということで、通常の政治活動の一環として、参考資料として配布した」と説明した。冊子の入手の経緯や、費用などについては「答えられない」とした。

<沖縄国際大の佐藤学教授(政治学)の話> 素性の分からないネット上の発信者の言説であり、いわば怪文書の類い。それに価値を見いだし、平然とお墨付きを与えるなど、政権与党として嘆かわしい。政党の通常の活動として度を越している。出所不明の言説を国民が受け入れると考えているのなら、問題だ。

<NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」副理事長でジャーナリストの立岩陽一郎さんの話> 政権への批判をフェイクニュースと決めつける姿勢は、米国トランプ大統領の手法さながらで問題。メディアへの信頼を失わせようとの態度が先鋭化している。メディアの役割が弱まれば、民主主義が危うくなる。

主な政党の公約

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