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立候補予定者アンケート 9条改憲、乱れる歩調

2019年7月2日 紙面から

 参院選(七月二十一日投開票)の政策論争が本格化する。立候補予定者アンケートでは、憲法改正や原発再稼働、女性天皇論を巡る見解の違いが明らかになった。

 参院選立候補予定者の中で憲法九条に自衛隊を明記する改正に反対する声が55・4%に上ったのは、改憲勢力を構成する公明党や日本維新の会の候補の多くが賛成しなかったためだ。安倍晋三首相(自民党総裁)が唱える九条改憲を巡り、自公維の歩調の乱れが浮かんだ。

 アンケート結果を政党別に見ると、九条への自衛隊明記に賛成した自民候補は88・6%。公明は7・7%、維新は22・2%にとどまった。

 自民候補を見ても、最優先で議論する項目は参院選「合区」解消が36・2%と最も多く、自衛隊明記24・6%、緊急事態条項10・1%が続いた。

 改憲勢力は安倍政権下での改憲に前向きな政党と諸派・無所属議員の総称。環境権などの新しい項目を付け加える「加憲」を主張する公明党、教育無償化や統治機構改革の改憲を求める維新も含める。改憲の国会発議には、少なくとも両党の賛同が得られる項目の調整が不可欠となる。

 二〇一六年の前回参院選で改憲勢力が衆参とも三分の二議席以上となった後、首相サイドは自公で改憲項目を擦り合わせた上で他党を呼び込む段取りを描いた。だが、自公の話し合いは進まず、足踏み状態が続いている。

 今回の参院選では改憲勢力が三分の二以上の議席を維持するかどうかが注目点。首相は「改憲論議を進める党」か「議論すらしない党」かを有権者に問う。ただ選挙後の公明や維新との改憲協議を見据え、九条など具体的項目の訴えは最小限に抑える構えだ。

【原発再稼働】旧民進2党、割れる賛否

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 原子力規制委員会が新規制基準に適合すると判断した原発を再稼働させることへの賛否を聞いたところ、立憲民主党では「反対」との回答が100%だった。一方、国民民主党では「賛成」との回答が43・5%で「反対」の34・8%を上回った。旧民進党を源流とする両党で原発政策の見解が分かれた。

 自民党は「賛成」が87・1%、公明党も61・5%で、ほぼ再稼働を容認した。三年前の参院選の際の候補者アンケートでは自公ともゼロだった「反対」が、今回は自民が二人、公明が一人いた。

 立民は「再稼働を認めず、原発ゼロ基本法案の早期成立を目指す」と公約に明記。避難計画の作成と地元の合意を条件として、再稼働を容認する国民との違いが浮き彫りになった形だ。

 「脱原発依存体制の構築」を公約に盛り込んだ日本維新の会は「賛成」55・6%、「反対」33・3%。共産党は97・0%、社民党は全員が「反対」だった。

【女性天皇】自民、根強い慎重論

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 女性天皇の是非を聞いたところ、全体の62.5%が賛成した。反対は11.5%、その他・無回答は26.0%だった。自民候補は賛成34.3%、反対22.9%、その他・無回答42.9%に分かれた。公明、立憲民主、国民民主、共産、社民の各党は大半が賛成だった。

 皇室典範は皇位継承資格者を「男系男子」と定める。自民の保守系議員には、女性天皇が、父方に天皇のいない女系天皇につながりかねないと慎重論が根強い。立民は安定的な皇位継承に向け、女性天皇や女系天皇を認める論点整理を6月にまとめた。国民は公約に女性天皇容認を明記する。

 アンケートでは、日本維新の会は賛成27.8%、反対5.6%、その他・無回答66.7%だった。

 女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」の創設に関しては、賛成51.7%、反対18.6%、その他・無回答29.7%となった。自民は賛成30.0%、反対27.1%と拮抗(きっこう)した。他党の賛成は公明53.8%、立民80.6%、国民65.2%、共産84.8%、維新22.2%、社民71.4%だった。

【政治への信頼】忖度、国会軽視…不信68%

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 政治が国民に信頼されているかを質問したところ「信頼されていない」(53・2%)と「どちらかといえば信頼されていない」(15・2%)が計68・4%に上った。党別に見ると、野党各党は政治不信の両回答が80%を超えた。自民党候補は「信頼されている」(12・9%)、「どちらかといえば信頼されている」(57・1%)が計70・0%。

 アンケート回答者には理由も自由記述で尋ねた。自民の山田修路氏は「外交・通商政策、経済政策など適切に対応している」と強調。和田政宗氏は「内閣支持率が高い。若者や勤労世代は政権の経済政策を評価している」とした。

 公明党は「どちらかといえば」を含めて政治不信を認める回答が計46・2%となり、信頼されているの二回答計30・8%を上回った。若松謙維氏が「自公政治の安定が国民に受け入れられた」と説明するのに対し、佐々木さやか氏は「公文書改ざん、不適切発言で国民の信頼を失っている」と厳しい見方を示す。

 立憲民主党の野田国義氏は「『一強政治』の横暴が止まらず、官僚が官邸の顔色をうかがう忖度(そんたく)が疑われている」と記述し、園生裕造氏は「国民に不誠実な政権への不満が高まっている」と答えた。国民民主党の大塚耕平氏は「政治家、政党の行動規範が緩んでいる」と断じた。

 共産党の紙智子氏は「政策決定がうそとごまかしで行われている」と非難。日本維新の会は「官僚の劣化への対応が不十分」(東徹氏)との回答が目立った。社民党の吉田忠智氏は森友、加計学園問題を踏まえ「(政権が)政治の公平・公正を軽んじている」とした。

◆調査の質問と回答(数字は%)

問1 10月に予定される消費税率の10%への引き上げについて、どうお考えですか。

 予定通り実施するべきだ 28.6

 延期するべきだ 12.3

 引き上げを中止するべきだ 35.3

 その他・無回答 23.8

問2 安倍政権の経済政策「アベノミクス」でデフレ脱却は近づいていると思いますか。

 近づいている 18.6

 どちらかといえば近づいている 12.3

 変わっていない 21.2

 どちらかといえば遠のいている 11.2

 遠のいている 30.9

 その他・無回答 5.9

問3 憲法改正を議論する必要はあると思いますか。

 必要だ 62.5

 不要だ 30.5

 その他・無回答 7.1

問4 安倍政権の下で憲法を改正する是非に関し、あなたの考えに最も近いのは次のうちどれですか。

 賛成 29.4

 どちらかといえば賛成 5.2

 どちらかといえば反対 2.6

 反対 44.2

 その他・無回答 18.6

問5 (問3で「必要だ」と回答した人に聞く)最優先で議論する必要がある項目は次のうちどれですか。

 自衛隊を憲法に明記(9条) 17.3

 国会議員の任期延長など緊急事態条項の新設 4.2

 参院選の「合区」解消 16.1

 教育無償化・充実強化 13.7

 臨時国会召集の期限明記(53条) −

 首相による衆院解散権の制約 6.5

 道州制を含む地方自治 3.6

 憲法裁判所の設置 1.8

 プライバシー権など「新しい人権」の新設 6.5

 自衛隊明記以外の内容で9条を改正 3.6

 その他・無回答 30.4

問6 自民党は憲法9条に自衛隊を明記する改正案をまとめました。この案についてどうお考えですか。

 賛成 30.1

 反対 55.4

 その他・無回答 14.5

問7 新たな規制基準に適合した原発を再稼働させることについて、どうお考えですか。

 賛成 39.4

 反対 48.7

 その他・無回答 11.9

問8 4月から外国人労働者の受け入れを拡大する新制度が始まりました。受け入れの態勢は整っているとお考えですか。

 十分整っている−ある程度整っている 24.9

 あまり整っていない 27.1

 全く整っていない 40.9

 その他・無回答 7.1

問9 皇室典範は皇位継承資格者を「男系男子」と定めています。女性天皇を認める是非をどうお考えですか。

 賛成 62.5

 反対 11.5

 その他・無回答 26.0

問10 女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」の創設についてどうお考えですか。

 賛成 51.7

 反対 18.6

 その他・無回答 29.7

問11 あなたは今の政治が国民に信頼されているとお考えですか。

 信頼されている 3.3

 どちらかといえば信頼されている 17.1

 どちらかといえば信頼されていない 15.2

 信頼されていない 53.2

 その他・無回答 11.2

問12 問11の答えの理由を教えてください。(自由記述)=略

問13 参院選後に優先して取り組むべき課題は何だとお考えですか。

 景気対策 46.8

 社会保障改革 54.6

 人口減少対策 26.8

 子育て支援 40.9

 地域活性化 19.0

 外交・安全保障 12.3

 災害復興 10.8

 原発を含むエネルギー問題 11.5

 憲法改正 7.1

 行政改革 4.5

 政治改革 3.3

 選挙制度改革 5.9

 政治とカネ問題 2.6

 国会改革 1.5

 その他・無回答 23.8

<調査の概要> 共同通信社が6月25日までに把握した参院選の立候補予定者で、連絡先が判明した309人に質問用紙を配布。269人から回答を得た。内訳は自民党70人、公明党13人、立憲民主党36人、国民民主党23人、共産党33人、日本維新の会18人、社民党7人、諸派46人、無所属23人だった。四捨五入の関係で、比率の合計は100%にならない。複数回答では比率合計は100%を超える。「−」は回答なし。

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