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7党首ら討論詳報

2019年7月4日 朝刊

参院選に向けた討論会に臨む与野党7党首ら。(左から)日本維新の会の松井一郎代表、国民民主党の玉木雄一郎代表、公明党の山口那津男代表、自民党総裁の安倍晋三首相、立憲民主党の枝野幸男代表、共産党の志位和夫委員長、社民党の吉川元幹事長=3日午後、東京都千代田区の日本記者クラブで

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 与野党7党の党首らは3日の討論会で憲法、経済・消費税、老後資金・年金といった主要課題で論戦を展開した。21日投開票の参院選へ各党はどのような主張をしたのか。討論・質疑の詳報は次の通り。

◆各党の冒頭発言要旨

◇<自民>安倍晋三総裁 政治の安定守る

 現在も九州を中心に記録的な大雨が続いている。警察、消防、海上保安庁に加え、自衛隊は一万四千人の即応態勢を敷いて、万全の態勢を取っている。どうか国民の皆さまは、油断せずに市町村の避難勧告などに従って早め早めに避難し、命を守るための行動を取ってください。わが党は、政治の安定を訴えていきたい。

◇<公明>山口那津男代表 国民の声を聴く

 政治の安定と並び、国民の声を聴くことが重要だ。公明党は百万人の訪問調査運動を昨年展開し、小さな声であってもそれを形にする、国会議員と地方議員のネットワークを生かして政策を実現する、そういう実践をしている。小さな声を聴く力があることは、政治に信頼と希望を生む。

◇<立民>枝野幸男代表 生活防衛へ一歩

 企業収益などは上がっているが、実質賃金が下がっている方。非正規雇用が固定化している方。そして年金だけでは暮らしていけない高齢者の皆さん。安心して子どもを産み、育てることができない、そういう不安を抱えている皆さん。残念ながら生活の不安を抱えている方がたくさんいる。皆さんの生活を防衛する。そのための第一歩を示す選挙にしていきたい。

◇<国民>玉木雄一郎代表 消費軸に好循環

 アベノミクスに代わる次の政策として、家計第一の経済政策を訴えたい。好循環の出発点を変えたい。私たちは好循環の出発点を家庭に置いて、家計を徹底的に豊かにして、消費する力を高め、国内総生産(GDP)の六割を占める消費を活性化させ、消費を軸とした好循環を作り上げる新しい経済政策を打ち出したい。

◇<共産>志位和夫委員長 富裕層優遇正す

 「消費税10%ストップ」「暮らしに希望を」と訴えて選挙を戦う。七兆円もの年金削減をやめさせ、低年金を底上げしていく。最低賃金千五百円など、(一日)八時間働けば普通に暮らせる社会をつくる。高すぎる国民健康保険料を引き下げ、暮らしを支える社会保障を築く。大学の学費は直ちに半分無料を目指す。財源は、富裕層と大企業への優遇税制を正して賄う。

◇<維新>松井一郎代表 増税より改革を

 二〇一二年に自民、公明、民主三党で復興増税と消費税増税が決定された。その時、国民の皆さんと約束したのは、国民に負担を求める限りは、国会議員も今の身分を改めるということだった。あれから七年たったが、この約束がほごにされたままだ。われわれはその約束を守っている。「身を切る改革」なくして、消費税の増税はやめ、凍結していきたい。

◇<社民>吉川元・幹事長 安心の社会保障 

 今必要なのは憲法を変えることではなく、憲法を守り、活(い)かすことだ。これを強く訴えていきたい。今、企業は大変利益を上げている。一方で、国民の間には生活、将来に対する不安がかつてないほど広がっている。行政、政府、政治が国民に自己責任を問うのは責任放棄だ。この政治を変えて、安心の社会保障をつくっていくと訴えていきたい。

◆憲法 

 安倍晋三首相(自民党総裁) (私が提唱するのは)九条に一項、二項で制約を受ける中で自衛隊を明記するものだ。自衛隊の存在を明確に憲法に位置付けるのは防衛の根本だ。

 与野党で(改憲の国会発議に必要な)三分の二の合意を得られる努力を重ねたい。日本維新の会は教育無償化で、われわれと大体同じ方向だ。国民民主党の中にも改憲に前向きな人がいる。その中で合意を形成していきたい。

 山口那津男公明党代表 改憲について議論が十分でないという冷静な現実認識を持ち、議論を深める努力が必要だ。

 枝野幸男立憲民主党代表 与党は憲法審査会を、結論ありきで進めようとしている。国民投票法改正案も、与党案だけを採決しようとしている。このような姿勢では建設的な議論は進まない。

 玉木雄一郎国民民主党代表 憲法はしっかり議論しようという立場だ。公平公正な国民投票を実現するために、活動に資金力で差が出てはならない。わが党が国会に提出したCM広告規制を入れた形の国民投票法改正案を成立させてほしい。

 志位和夫共産党委員長 世論調査では国民の五割以上は改憲を望んでいない。憲法審を動かす必要はない。憲法を守らない首相の下でまともな議論はできない。

 吉川元・社民党幹事長 憲法を変えるのではなく、まずは活(い)かすことだ。集団的自衛権の行使を容認した安全保障法制が合憲なのかを議論する必要がある。

 松井一郎日本維新の会代表 憲法審で議論するのは政治家の仕事なのに、参加しない志位氏や枝野氏は無責任極まりない。われわれは義務教育無償化、憲法裁判所、地方分権をしたい。改憲条文は作っている。自民党が出す九条案と横に並べ、まともな議論をしたい。

 枝野氏 違憲の安保法制を元に戻さないと九条の議論はできない。今の状況を棚上げにし、条文を変えますというのは無責任な議論の仕方だ。

◆議席目標

 安倍氏 自民、公明両党で政策遂行に必要な非改選議席も含めた過半数を確保したい。

◆皇位継承

 安倍氏 (女性天皇や女系天皇を容認するか否かについては)党として決めていかなければならない問題で、議論中だ。女性、女系の違いを国民に説明しないといろいろな誤解を招く。

 志位氏 天皇制は憲法の規定を守る限り、今の社会変革を進める上で、戦前のような障害にはならない。天皇は日本国と国民の象徴であり、男性に限定する合理的理由はない。女性天皇、女系天皇容認は筋の通った話だ。

◆経済・消費税

 枝野氏 野党各党は消費税を当面上げられる状況にないことで完全に一致している。日本の企業収益は過去最高だが、法人税収は比率的に大きく下がった状態だ。企業はもうけた金を内部留保している。高所得者の所得税率が低い。累進課税を強化し、ゆとりのある人にもう少し税金を納めてもらう形で財源を確保したい。

 山口氏 国際競争力を考えると法人に負担を求めるには限度がある。子育て支援、教育無償化に要する財源として、消費税をどう生かすかを明確にする必要がある。消費税の負担を国民にお願いするからには、衆参ともに10%の歳費削減を提案している。

 安倍氏 消費税を安倍政権でこれ以上引き上げることは全く考えていない。

 枝野氏 消費税を8%に上げた悪い影響が継続している。消費不況が続いている間は、上げられない。消費税が社会保障に使われているのか、国民の不安、不満、不信が高まっている。

 玉木氏 現在の経済状況を考えると、今は家計を温める時だ。増税すべきではない。内部留保が非常に高いと言われる中、国際的に法人税をしっかり上げることで税収確保になる。教育、子育て、科学技術への投資は国債を発行してでも速やかに拡充すべきだ。

 松井氏 今の時点で消費税を10%にする必要はない。行政改革をやれば財源は出てくる。大阪府では実行した。これを日本中でやりたい。

 志位氏 優遇税制を正そうと言っている。大企業にも法人税を中小企業並みに払ってもらう。所得が一億円を超えれば、税負担率が下がる。株のもうけにかかる税金が軽いからだ。二つの改革で七兆円の財源が作れる。それを最低賃金の引き上げや学費の値下げに使っていく。

 安倍氏 消費税は今後十年ぐらいの間は上げる必要はないと思っている。

 安倍氏 日銀の「異次元」の金融緩和は失敗ではない。デフレではないという状況は作ることができた。アベノミクスを進める前は、今よりも失業者が百万人も多かった。今春、高校や大学を卒業した若い方の就職率は過去最高水準だ。

◆外交・安全保障

▼日米安保条約

 安倍氏 米国は日本に対する防衛義務を負っている。日本が基地を米国に提供し、米国の海外権益が守られている。双務性は確保していると、トランプ大統領に最初に面会した時から伝えている。平和安全法制によって、日本を守るため互いに助け合うことができる同盟になった。

 山口氏 米国が攻撃されたら日本が助けに行くなんてことが起きるとしたら、国際的に大変な事態だ。そういうことを想定して双務性を議論すべきではない。

 枝野氏 立民は明確に日米安保体制堅持だ。健全な発展を目指すという立場は自公と一致している。(同盟は)米国の国益に資することを日本の政治家、特に政府が明確に発信する必要がある。

 志位氏 トランプ氏による「安保条約は不公平な合意」とする発言は、安倍氏も早くから言ってきたこと。著書で「軍事同盟というのは血の同盟だ」と書いている。米軍のために血を流して戦う自衛隊にすることに九条改憲の本当の狙いがあるのではないか。

 吉川氏 集団的自衛権行使を一部容認した安保法制の廃止に全力を挙げる。

▼拉致問題

 安倍氏 トランプ氏、中国の習近平国家主席からそれぞれ北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に私の考え方を伝えてもらった。厳しい制裁を続けており、この政策に変わりはない。しかし(日朝首脳)対話には条件を付けないと申し上げている。(実現の見通しについて)詳細は申し上げることはできない。今何合目と言えたら、どんなにいいだろう。本当にそう思っている。

▼イラン情勢

 吉川氏 大きな戦争が起こった場合、自衛隊の出動を(トランプ氏から)要請されるのではないか。

 安倍氏 緊張の高まりは大変残念だ。絶対に武力衝突が起こらないように役割を果たしたい。トランプ氏にも最高指導者ハメネイ師にも自制を強く呼び掛けている。日本は憲法、法制の範囲内で世界の平和と安定を守るために正しく行動する。

▼辺野古移設

 吉川氏 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先を名護市辺野古にこだわる限り、普天間飛行場の返還はますます遠のく。米国と再交渉すべきだ。

 安倍氏 世界一危険と言われる普天間飛行場の固定化は断じてあってはならない。辺野古移設は基地を新たに増やすものではない。

 山口氏 政府にもっと県民の理解を求める努力をするよう促したい。

▼北方領土交渉

 安倍氏 私たちの手で解決するという決意は(ロシアのプーチン大統領と)文書で確認している。ただお互いにそれぞれの世論がある。その中で世論とキャッチボールしながら前に進める。

▼韓国への輸出規制

 安倍氏 元徴用工や慰安婦問題で相手の国が約束を守れない中では、今までの優遇措置は取れない。世界貿易機関(WTO)協定に反する話では全くない。

◆老後資金・年金

 安倍氏 老後に二千万円の蓄えが必要とした金融庁金融審議会報告書は、年金受給者を平均で見るのが正しくなかった。五千万円以上の預金者が一割いて、平均を引き上げている。年金生活の実態はそれぞれで、麻生太郎副総理兼金融担当相は政策立案に不適切だと判断し受け取らなかった。

 枝野氏 年金制度は「百年安心」というイメージを振りまいてきた。年金だけではやっていけないから二千万円をためてと言われたら、貯蓄がない人はどうしたらいいのか。報告書をなかったことにしても、年金財政の健全性をチェックする五年に一度の財政検証の発表を選挙後に先延ばししても、不安は解消されない。年金制度への不安に正面から取り組むべきだ。

 安倍氏 年金は一人一人の生活に着目し、政府として支えるのが大切だ。消費税を財源に、低所得者に対し年間最大六万円の給付金を支給する。介護保険料も三分の二に低減する。

 枝野氏 年金だけが頼りの貯蓄のない高齢者は多く、年金保険料を払えない非正規労働者も増えている。私たちは(医療、介護などの世帯ごとの自己負担額に上限を設ける)総合合算制度の導入で大きな蓄えがなくても、安心できる社会を目指していく。

 玉木氏 厚生労働省の二〇一八年国民生活基礎調査では高齢者世帯で生活状況が「苦しい」と答えた割合は55・1%に上った。年金の最低保障機能を高めなければいけないのではないか。

 安倍氏 残念ながら負担増なく年金給付額を増やせる「打ち出の小づち」はない。

 玉木氏 支援が必要な人に最低でも月五千円を届けるべきだ。財源は金融所得課税や法人税強化で捻出する。

 志位氏 (物価や賃金の伸びよりも年金給付を低く抑える)マクロ経済スライドを続ければ年金給付額が七兆円減る。廃止し、減らない年金にすべきだ。賃上げや正社員化で支え手を強くするなど三つの財源策を示している。

 安倍氏 マクロ経済スライドは年金の持続性を確保していく根幹だ。税と社会保障については大きな基盤をつくることが大切だと思っている。(野党との)話し合いにはいつでも応じたい。

◆ハンセン病

 吉川氏 熊本地裁がハンセン病元患者家族への差別を認め、国に損害賠償を命じた判決を出した。国は判決を受け入れ、控訴を断念すべきだ。

 安倍氏 ハンセン病患者の皆さん、ご家族の皆さんは人権が侵害され、大変つらい思いをしてこられた。判決をよく精査しなければいけないが、われわれは本当に責任を感じなければならない。どういう対応を取るか真剣に検討し判断したい。

◆政治姿勢

▼野党統一候補

 安倍氏 共産党は自衛隊は憲法違反との立場だ。憲法の違いについて全く統一されていないのは大きな問題だ。政府を倒すだけのために統一候補を擁立した。選挙が終わったら、ばらばらになり、また決められない政治の再現になる。

 枝野氏 改選一人区は野党五党派で候補者を一本化し、有権者に今の政治の継続でいいのか、それとも軌道修正が必要かという選択肢を示した。憲法違反の安保法制は廃止すると一致した。

▼野党の展望

 枝野氏 家計を起点とする経済、多様性を力にする社会、参加型の民主主義へ変え、期待に応えられる政権運営ができる準備を進めている。

 玉木氏 野党が違いを乗り越え大きな固まりになり、国民に選択肢を示すべきだとの問題意識から各党に連携を働き掛けてきた。自由党との合流を第一歩として野党の連携強化を進めたい。

 吉川氏 参院選は社民党にとり政党要件が懸かる崖っぷちの戦いだ。護憲を党是としてきた党が、小さくとも残っていく必要がある。

▼参院定数増

 松井氏 公明党は参院選公約で「身を切る改革」を主張している。人口減少の中で、なぜ参院の六議席増を認めたのか。

 山口氏 参院で単独過半数を持つ自民党の主張が通るのを見越し、投票価値の不平等にならないように、やむを得ず定数増を認めた。

▼予算委開催拒否

 安倍氏 昨年、国会に二百七十八時間出席した。メイ英首相ら多くの国では四十時間前後だ。それなりに責務を果たしている。私には行政府の長としての仕事がある。理解していただきたい。

 山口氏 参院は決算委員会を重視している。首相も出席する決算委を開き、野党の質疑を確保し充実した議論を行った。

▼議員の資質

 松井氏 所属する議員、候補が大勢の人たちを傷つける行動と発言をしたことは非常に申し訳ない。候補を選ぶに当たり、執行部が人の本質を見抜けるような目を養わなければいけない。

▼森友・加計問題

 安倍氏 私も妻も直接関わった証拠はなかった。しかし、公文書の改ざんは大変申し訳ない。再発は防止しなければならない。疑いを持たれないよう襟を正したい。

◆原発・エネルギー

 枝野氏 立民などが国会提出した原発ゼロ基本法案の審議に与党が応じていない。原発ゼロは、福島第一原発事故から八年が経過し、社会状況の変化もあって、もはやリアリズムだ。

 安倍氏 原発ゼロは責任あるエネルギー政策とは言えない。多くの原発が止まり、家庭や中小企業の負担が増えた。日本は二酸化炭素(CO2)を削減する義務も負っている。エネルギー自給率の問題もあり、原発ゼロを直ちに実現するのは責任ある姿勢とは言えない。考え方が違う。

 山口氏 原発は、基準を満たして地域住民の理解を得られれば、再稼働は認める。しかし、新増設は基本的に認めないという立場だ。

 安倍氏 自民党も政府も、現時点で新増設は想定していない。新増設をしない中で、安定供給に向けたエネルギーミックス(将来の電源構成)を立てている。

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