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“年金” 老後の要 議論を

2019年7月5日 朝刊

街頭演説を聞く堀口暁子さん。「一人一人の投票で、子どもや孫の世代まで暮らしをよくしたい」と話す=東京都新宿区で

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 安倍政治の6年半を問う参院選が4日、公示され、有権者は雨空の下、候補者や党首らの訴えに耳を傾けた。「老後2000万円不足問題」で選挙の大きな争点になった年金。「『100年安心』はまやかしだ」「孫たちの老後はどうなるのか」。高齢者からは、自分たちだけでなく若者の将来も心配する声が聞かれた。

 四日午前、小雨がぱらつく東京・新宿駅。参院選立候補者の街頭演説で歩道を埋め尽くした聴衆の中に、堀口暁子さん(74)=東京都八王子市=はいた。年金に支えられる生活に、余裕はない。「私たちは最低限、生きる権利さえ奪われている。自分たちの一票で税金の使い道を変えないと」。子どもや孫の世代も見据え、年金制度の拡充を政治に求める。

 本や段ボール箱がうずたかく積まれた自宅の六畳間で、パソコンに向き合うのが日課。今日の食費は、医療費は、いくらかかったのだろう。スーパーでは安くなった出来合いの食品を買う。友人との付き合いも減らした。家計簿に打ち込んだ数字が前月より少しでも多いと、ため息が出る。

 高校卒業後に就職した大手電機メーカーの研究所を二〇〇四年に定年退職。同僚だった夫の和男さん(78)と二人分の退職金は、自宅のローンに消えた。年金は夫婦合わせて月額約二十六万円だが、シングルマザーの娘や介護職の息子ら生活の苦しい三人の子どもへの援助もあり、食費などを削っても収支は赤字。貯金から毎月五万〜六万円ほど取り崩す。

 夫婦で九十五歳まで生きるには二千万円の蓄えが必要との試算を「誤解を与えた」と否定する政府に、「ずっと前から分かっていた話なのに政府はひた隠しにしてきた」と不信を募らせる。

 「最低でも二千万円の貯金が必要だと実感しています。私たちは夫婦だから何とかなっていますが、それでもカツカツの状態です」。関節リウマチを患い、和男さんも三年前に胃がんを発症した。年齢を重ねるごとにのしかかる医療負担に、不安は強まる。

 和男さんは、給付水準の低下が見込まれる現役世代の暮らしも気掛かりでならない。高卒後に正規雇用の職を得られなかった二十代の孫は、年金保険料を納めるどころか、わずかな貯金すらできない。孫の姿に、労働者全体の四割が非正規を占めるようになった、この国の若者たちを重ねる。

 「政府が声高に言っていた『年金は百年安心』なんてまやかしだったということでしょう。普通に暮らせない時代は、もう既に来ている。孫たちの老後はどうなってしまうのか」

 「この先何年生きるか分からないけど、どう自衛していけばいいのか」。東京都世田谷区の斎藤美恵子さん(72)は不安を打ち明ける。築四十年近いマンションの六畳二間で一人で暮らす。高卒後、正社員だった時期もあるが、体調を崩すなどして何度か職を変えてきた。年金保険料を払えない時期があったものの、「受給資格を得られるように」と、厚生年金と国民年金の保険料を三十年近く払い続けてきた。

 それでも年金の月額分は六万円余り。中古で購入したマンションの管理費、修繕積立金に月二万円が必要。介護保険料のほかに食費や通信費もかさみ、虎の子の貯金を崩して何とか生活する。「どれだけ生活を切り詰めても、貯金から五万円は出ていく」。そう言って苦笑した。

 怒りの矛先は、十五兆円もの運用損失を出したと二月に発表した年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)にも向く。「国民の大事な年金を預かっておいて、投資で損失を出したなんて」

 十月には消費税増税が予定され、負担は一段と増す。「貧乏人は死ね、と言わんばかりの政策としか思えない。貯金がなくなったら、マンションを売るしかないのかな」とつぶやきつつ、選挙に託す。「若い人たちも年金問題にもっと当事者意識をもってほしい。弱者に優しい政治に変えていくために」 (神野光伸)

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