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<参院選ルポ>防災争点にして 西日本豪雨1年 善意頼み、復旧続く倉敷

2019年7月7日 朝刊

ボランティアに家を清掃してもらった長通文江さん(左)と掃除を続ける夫の真治さん=岡山県倉敷市真備町地区で

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 「ガンガン」「バキッ」「メリメリー」。土ぼこりが舞い、ハンマーやバールの音が何重にも響く。「また夏がきたね」「暑くなる前に片付けないと」。岡山県倉敷市真備(まび)町地区にある家の中で、大粒の汗を垂らしながら作業しているのは、全国からやってきたボランティアたちだ。

 二百七十五人が亡くなった西日本豪雨から、六日で一年がたった。中でも真備では、中心部を流れる高梁(たかはし)川に合流する小田川の堤防が決壊し、大規模な浸水被害が生じた。今も被災者からの依頼がやまず、毎週末、約百人のボランティアを募る。

 最近多い依頼が、リフォーム前の清掃だ。浸水した家屋は土砂を取り除いても、壁や床下にカビが生えてしまい、そのままでは建て直しができない。ボランティアは壁や床の板をすべてはがし、柱と梁(はり)だけにした上で、ブラシで磨く。

 泥がこびりつき、黒く染まっていた部屋は、数日間の作業で茶色の木目が見えるように。その状態で業者に引き渡すことで、数百万円が節約されるという。

 「リフォームの見積もりは千五百万円。ボランティアさんがいなかったら、二千万あっても足らんのじゃ」。一緒に作業する家主の長通(ながどおり)真治さん(63)が脚立の上から声を張り上げた。「みなさんがいなかったら立ち直れなかった。本当にありがたい」と妻の文江さん(58)は涙ぐんだ。

 真備では今も約七千人が仮設住宅や、自治体が用意したアパートで避難生活を送る。家屋の再建には国などから最大三百万円が支給されるが、とても足りない。

昨年7月、豪雨で小田川が氾濫し広域で浸水した同地区

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 「貯金がなかったり、また浸水するのが怖かったりして、地元に戻れない被災者は多い」。自宅が浸水しながらも、市民団体で被災者支援を続ける守屋美雪さん(70)が明かした。

 長い雨が降ると、守屋さんの携帯電話の鳴る回数が増える。「雨音が怖い」「川は大丈夫じゃろうか」。ちりぢりに避難しているお年寄りからの電話だ。

 守屋さんは「住民の声を国が本気で聞いてくれていれば」と憤る。小田川は戦前から氾濫を繰り返した歴史があり、住民が国に何度も治水を訴えてきた。

 しかし、抜本的な治水工事に予算が付いたのは二〇一四年。昨年秋に工事が始まる予定だった。「もっと早ければ、多くの命が救われたのに」と守屋さん。近年の政策には住民の視点が欠けていると感じる。「一部の政治家がトップダウンで決めているのではないか。昔は陳情で、地域の声を少しは吸い上げていた」

 自然災害の続発を受け、政府は昨年冬、三年で七兆円規模の対策を打ち出した。治水や堤防の増強が目玉だが、中にはプラスチックごみのリサイクル設備整備や国立大学の施設増強、山の鳥獣対策など、防災としての区分があいまいな事業もある。

 始まった参院選では、改憲や年金、消費税の話題が先行する。守屋さんはまだ地元の候補者の姿を見ていない。「防災は争点になっていないのか。国民の命を守ることが一番大事でしょう」と守屋さん。「政治家には、今の真備の様子を見に来てほしい」と語った。 (原田遼)

<国土強靱化(きょうじんか)と防災> 2013年の国土強靱化基本法成立以降、公共事業を中心に毎年4兆円近い関連予算を投入している。さらに、昨年冬には3年間で7兆円の緊急対策も決まり、小田川など全国約120河川の堤防強化や、台風で浸水した関西空港の護岸かさ上げなどが盛り込まれた。インフラ強化が期待される一方、消費税増税を見据えた景気対策との見方もあり、無駄な公共事業の増加も懸念されている。

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