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<参院選ルポ>LGBT 行き場失い生活困窮 差別や偏見なくす法整備進めて

2019年7月10日 朝刊

「LGBT支援ハウス」を経て自立した男性=6月30日、東京都新宿区で

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 梅雨空が広がる日曜午後。埼玉県の派遣社員の男性(47)は、東京・新宿二丁目で毎月開かれる同性愛者の交流イベントに参加した。十数人が集まったビル三階の会場。男性が三十代のゲイの友人に声をかけると、「元気そうじゃん」。長野に出掛けたことや、よく行く飲食店などたわいのない話をしながら一時間余を過ごした。

 男性は二十代半ばでゲイと自覚した。「同性愛を隠さずにいられる居場所。自分が生きていると実感し、世の中とつながっていると確認できる」と話す。だが、そんな場所は多くはない。

 男性は今年一月、派遣先の神奈川県内の工場を辞めた。親しい同僚にだけ、ゲイと打ち明けた直後、その同僚から仕事中に何回も後ろからズボンに手を入れられた。股間を触られそうになり、本人や派遣元の担当者に「セクハラだ」と訴えたが、対応してもらえず職場に居づらくなった。「ばかにされた感じがした」

 退職して会社の寮を出たため、家を失った。男性は大手鉄道会社の正社員を辞めてから転職を繰り返し、蓄えもなかった。中野区のマンションの一室でNPO法人などが運営するシェルター「LGBT支援ハウス」を頼るしかなかった。

 参院選では、与野党ともに多様性ある社会の実現やLGBT理解を掲げる。自民は選挙公約に「理解の増進を目的とした議員立法の速やかな制定」と明記する。先の国会で法案提出を目指していたが、見送っている。党内事情に詳しい関係者は「当事者が何に困っているか、まだ見えていない。党内の法整備の優先度は低い」と明かす。昨年十二月に野党六党派が共同提出した「LGBT差別解消法案」も審議されぬままだ。

 男性は二月末に再就職してシェルターを出た。今は埼玉県内の工場で働く。新しい職場ではまだ誰にもゲイと打ち明けてはいない。

 男性は「日本では同性間のセクハラを訴えても聞いてもらえない。同性カップルは結婚できないし、パートナーの死に際に会えなかったり、財産を相続できなかったりするのもおかしい。皆が生きやすい世の中へのルールを作ってほしい」と願う。

 一人で苦しんでいるのは男性だけではない。シェルターの運営メンバーで、エイズに関する啓発や支援をしてきたNPO法人「ぷれいす東京」代表の生島嗣さん(60)は「LGBTには、セクシュアリティーの問題があるために家族と疎遠で、周囲に『助けて』と言えない人が少なくない」と説明する。

 学校や職場で、いじめやハラスメントの被害を受けやすく、心身の不調から退職などに追い込まれ、住まいを失う場合もある。昨冬の開設以来、シェルターには男性を含め三人が入居した。運営に携わる立教大大学院特任准教授の稲葉剛さん(50)は「LGBT困窮者への支援ニーズが高いことが確認できた。背景には根強い差別や偏見がある」と話し、差別をなくす取り組みや支援の重要性を訴えた。 (奥野斐)

<LGBTと法整備> LGBTはレズビアン(女性同性愛者=L)、ゲイ(男性同性愛者=G)、バイセクシュアル(両性愛者=B)、トランスジェンダー(出生時の性別と異なる性を自認する人=T)を指し、性的少数者の総称としても使われる。世界では70超の国で性的指向に関する差別を禁じた法制度があるが、日本にはない。先進7カ国(G7)で同性婚やパートナーシップが法的に認められないのは日本のみ。同性カップルを自治体が認める「パートナーシップ制度」は全国24自治体(7月1日現在)に広がったが、法的効力はない。

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