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<公約点検>(2)年金 制度持続と救済 隔たり

2019年7月10日 朝刊

 老後の夫婦の蓄えに二千万円が必要と指摘した金融庁審議会の報告書をきっかけに、高齢者の生活資金不足や公的年金制度への不安が浮き彫りになった。政府は報告書の受け取り拒否で火消しを急いだが、かえって年金問題を重要争点に押し上げる結果になった。

 自民、公明の与党が制度の持続性を重視するのに対し、立憲民主、国民民主、共産、社民の野党四党は給付水準に力点を置く。対立軸は、将来の年金財源を確保するために給付を抑制すべきか、現在の低年金者らの救済を優先すべきか−と言い換えることもできる。

 一つのテーマに「是か非か」というシンプルな対立軸ではない。自公政権が二〇〇四年に導入した年金制度改革の根幹部分を立民、国民が否定していないからだ。根幹部分とは、物価や賃金が上昇した場合に支給額の伸びを抑える「マクロ経済スライド」のことだ。

 現に実施されている制度なので、自公両党は公約で直接言及していない。制度の維持を前提に「将来の給付を確保するためには年金額の調整が必要」(安倍晋三首相)と説明する。「調整」は給付抑制を意味する。年金の額面が増えても、それ以上に物価や賃金が上がれば実質減になる。

 首相や麻生太郎副総理兼金融担当相は金融庁審議会報告書を「不適切」と切り捨てた。一方で、自民の公約には個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」といった私的年金の活用促進も記載。老後資金を公的年金以外で確保する必要性を事実上認めている。

 立民、国民も公約でマクロ経済スライドに触れなかった。両党の源流の旧民主党が政権を担った際、制度に手を付けなかった経緯を踏まえた判断だ。立民は年金生活者を含む低所得者対策として、医療や介護、保育などの自己負担額の総額に上限を設ける「総合合算制度」の導入を掲げた。国民は生活資金が不足する低所得の年金生活者に、最低月五千円を加算して給付すると主張する。

 共産、社民の公約は与党との違いが明確だ。共産はマクロ経済スライド廃止による「減らない年金」を提唱。社民党もマクロ経済スライド中止を掲げた。

 持続性を最重視するのが日本維新の会だ。現役世代が払う保険料を高齢者の年金に充てる現在の「賦課方式」から、自分が払った保険料を老後に年金として受け取る「積み立て方式」への移行を唯一、打ち出した。

 政治団体「れいわ新選組」は公約で年金に言及していない。 (中根政人)

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主な政党の公約

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