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障害者の1票 なおハードル 全盲の男性、投票所への道「命の危険」

2019年7月12日 夕刊

自宅から投票所までの道のりを歩く上薗和隆さん=東京都板橋区で

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 「障害があっても1票を投じたい」。21日投開票の参院選では、そんな思いを持っていても、さまざまなバリアーを前に投票をためらう人たちがいる。行政機関に合理的な配慮を義務づけた障害者差別解消法の施行から3年。障害者への投票支援はまだ道半ばだ。 (岡本太)

 「私たちは命の危険を冒して投票に行くんです」。東京都板橋区の自宅前で、全盲の上薗和隆さん(67)が白杖(はくじょう)を手に歩き出した。車の行き交う道に縁石などで仕切られた歩道はなく、点字ブロックもない。

 投票所となる小学校は自宅から百メートルほどだが、通い慣れた駅とは反対方向だ。信号機の前に来ると、「この信号は音が鳴らないから怖くて…。投票所はここを渡った先なんです」。

 入院中だった二十歳の時の衆院選を除き、投票を棄権したことはない。「戦争しない国であり続けてほしい。犠牲になるのはいつも社会的弱者だから」との思いを一票に託す。

 視覚障害者の中には「慣れない場所に行くのを怖がって、投票を諦める人もいる」という。外出に付き添うガイドヘルパーには毎月の公費負担に上限がある。公職選挙法は重度の身体障害や要介護の人の郵送投票を認めているが、視覚障害は対象外だ。

 上薗さんは「選挙の時にはガイドヘルパーの利用を余分に認めてほしい。郵送投票も認められれば、一気に投票のハードルは下がる」と指摘。「障害者の一票も、健常者の一票も同じように大切にされるべきだ。障害を理由に投票を諦める現状はおかしい」と訴える。

 「知的障害者や自閉症の人にとっては、慣れない投票所に行って、投票すること自体がとても難しい。家族も『無理させなくても』と諦めてしまう」。狛江市の森井道子さん(62)が話す。知的障害者の家族団体「狛江市手をつなぐ親の会」の会長として親と交流してきた実感だ。

 公選法では、投票所で投票用紙への記入が難しい場合、代筆などの補助を係員に頼むことができる。ただ投票の秘密や公正性を守るため、家族らの付き添いは原則として認められていない。何度も投票所の前まで行きながら、家族と離れられずに投票を諦めた例もあったという。

 そんな中、狛江市選挙管理委員会は親の会とやりとりを重ね、公選法の例外規定を援用し、親が後ろ向きに手をつないで投票することも「あり得る」と説明するようになった。こうした理解はまだ一部で、「選管によって温度差は大きい」と森井さんは話す。

 選挙の公正性を担保するため、投票所での支援には公選法の制約が多い。そもそも、候補者の公約や経歴などの情報を、知的障害者にどう分かりやすく提供するかも課題だ。

 「怖くても投票したいと話す障害者は多い。みんな意見や訴えたいことがある」と森井さん。「何より大切なのは障害への理解。投票所の係員が『大丈夫ですよ』『安心してください』と声を掛けてくれるだけでも全然違う」

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