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<参院選ルポ>障害者雇用、数字ではない 静岡・浜松の農業法人 「安心」職場で働きやすく

2019年7月13日 紙面から

チンゲンサイの生育状態を確認する中村高博さん(右)と鈴木厚志社長(中)ら=浜松市南区で

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 民間企業で働く障害者が増える中、同じ職場で働き続けられる環境づくりなどが課題となっている。参院選では各党がさらなる雇用の促進を公約に掲げるが、現場からは具体性に乏しいという声もある。二十年以上にわたって障害者を雇い、今では従業員の四分の一を占める浜松市南区の農業法人・京丸園を訪ね、一緒に働くヒントを探った。 (鈴木凜平)

 四日朝、軽度の知的障害がある従業員の中村高博さん(34)が、ビニールハウスでチンゲンサイを収穫し、台車に積んでいた。「収穫して、運ぶ」と繰り返しつぶやきながら、約五十メートル離れた小屋まで何度も往復した。鈴木厚志社長は「根気強い彼にはぴったりの仕事だ。よくやってくれている」と目を細める。

 従業員百人のうち二十五人が障害者。能力や適性に応じて作業を細分化し、栽培の全ての工程をこなす。障害者がいなければ会社が成り立たない。

 昨年八月、障害者との共生をうたう国の省庁で、雇用率の水増し問題が発覚。全国の自治体でも同様の問題が相次ぎ明るみに出た。雇用率を下回った機関は不足分の緊急雇用を行い、今年六月には雇用率への不適切な計上があった場合、国が勧告できるよう法改正も実施された。

 雇用の「数字」を重視する姿勢に、鈴木社長は「急いで雇えばいいというものではない」と指摘する。本当に障害者雇用の意味を理解しているのか、疑問だという。

 京丸園が障害者を雇い始めたのは一九九七年。トレーの洗浄を指示すると、同じトレーを何時間も洗い続けたり、野菜の水やりができなかったり、「戸惑いもあった」と振り返る。

 しかし、トレーを洗いやすくする機械の開発や、「茎から何センチの所に何ミリリットル」といった指示の具体化など、職場環境を改善することで全体の生産性が大きく向上。障害者を雇用する前と比べ、従業員の数も売り上げも六倍以上に伸びた。退職者はほとんどいない。「ここまで二十年かかったが、障害者が安心して働けるようにすることで、誰でも働ける職場になる。雇うのは、決して『数字』のためじゃない」

 参院選では各党、各候補が障害者雇用の拡大を訴えるが、大きな争点にはなっておらず、具体的な公約も乏しいように見える。「本気で取り組もうとしているのか。付け焼き刃じゃ駄目だ」。当選のためではなく、障害者のために働いてくれそうな候補に一票を投じるつもりだ。

<障害者雇用> 障害者雇用促進法で企業や国、自治体が2.2〜2.5%の法定雇用率以上の障害者を雇うように義務付けている。身体から知的、精神障害者に対象を拡大し、雇用率も段階的に上げてきた。従業員を親会社に雇用されていると見なせる「特例子会社」についても定める。民間で働く障害者は2018年度、推計で過去最多の82万人超。中央省庁では昨年8月、退職者や裸眼視力が弱い人を障害者として計上していたことが発覚。17年6月時点で28機関3700人に上った。

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