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<くらしデモクラシー>選挙ツイート受信に偏り 無党派ユーザー「1党だけ」63%

2019年7月14日 朝刊

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 二〇一七年十月の衆院選で政党情報を受け取った無党派的なツイッターユーザーのうち、一党の発信しか受け取らない人が63・6%に上ったことが、豊橋技術科学大の吉田光男助教(計算社会科学)と東京大の鳥海不二夫准教授(同)の研究で分かった。主要六政党全ての情報を受信したのは1・6%のみで、ツイッター上で接触する情報の偏りが明らかになった。 (荘加卓嗣)

 吉田助教らは、衆院選前後の二〇一七年九月二十八日〜十月二十三日に政党の発信を受け取ったユーザー千六百七十四万人の傾向を分析。政党の公式アカウントを直接フォローしたり、発信をリツイート(転送)するユーザーは何らかの政党支持層とみて、どちらもしない受信者千三百十七万人を無党派的なユーザーと定義した。

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 この「無党派層」のうち、一党の発信しか受け取らなかったのは八百三十八万人。自民、立憲民主、旧希望、公明、共産、大阪維新の会の六党全てから受け取ったのは、二十一万人にとどまった。吉田助教は「無党派層は多様な情報を勘案して投票先を選ぶと考えられてきたが、ツイッター上では限られた政党の情報にしか接触しない傾向が明らかになった」と話した。

 また、同選挙でツイッター上のキーワードを分析した吉田助教と東大の臼井翔平特任助教(当時、同)の別の研究でも、情報の分断が指摘された。

 「枝野」「立憲民主党」などのキーワードをよく使う人々は、政府や立民とたもとを分かった旧希望に批判的なグループを形成。反対に「自民党」や、当時安倍政権がミサイル開発への危機感を訴えた「北朝鮮」といったキーワードは、メディアへの批判や政府支持のネットワークを形作る。双方のグループともツイートするのは一部ユーザーで、相手の主張を閲覧するケースは少なかった。

◆「左右」とも極論拡大

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 ネット上では異なる考え方を持つ人々が、激しい言葉を浴びせ合う光景が常態化している。閉じた空間で自分と同じ意見がこだまして増幅される「エコーチェンバー現象」も指摘される。ネット空間に詳しい作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さん=写真=は「ネット上では冷静な議論よりも、感情的な言い争いになっている。信じられないくらい分断している」と憂慮する。

 六月上旬、ネット上で岩屋毅防衛相が激しい批判にさらされた。「反日」「無能」などと防衛相をなじったのは主に右派の人々だ。

 昨年末の自衛隊機に対するレーダー照射問題発生後初となる韓国の鄭景斗(チョンギョンドゥ)国防相との非公式会談で、互いに笑顔で握手する姿などが弱腰と映ったらしい。逆に日ごろは安倍政権に批判的な人々が「ネトウヨの言いがかり」などと激しい言葉で応戦し、岩屋氏の擁護に回る場面があった。

 佐々木さんは「極端な文化圏にいると情報だけでなく物言いまで引きずられる。右も左も外からは同じように過激に見えることに気付かない」と指摘する。極端な意見が拡大される「エコーチェンバー現象」は、米大統領選でトランプ大統領を生んだ一因とも指摘されている。

 佐々木さんはかつて、ツイッター上で極端な左派を「暴力的な物言いはやめた方が良い」とたしなめた。すると「トーンポリシングだ、と矢のような返信があった」という。トーンポリシングとは、抗議の内容より態度を問題にして批判をそらす行為のことだ。

 佐々木さんは「徒党を組んで罵声を浴びせ、みんなで暴言を吐いて良いんだという文化が、左右ともに広まっている。極右や極左の人の数が増えているわけではない。実態として中庸な人はいるのに、左右の極端な声におびえて声を出せなくなっている」と指摘。「中庸な意見をどうすくい上げるか」が、現状打破の課題とした。

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