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<参院選ルポ>外国ルーツの子 遅れる公的支援 「日本の一員勉強・就職サポートを」

2019年7月15日 朝刊

職場の仲間と一緒に昼食をとるジェイソン・ブリトさん(中)=東京都世田谷区のデイホーム桜丘で

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 「野菜を切るの、うまくなったわよね」。東京都世田谷区の福祉施設「デイホーム桜丘」。利用者の昼食準備を終えた地域ボランティアの女性たちが、昼食のテーブルを囲んでフィリピン人の若者に話しかける。

 「おかげさまで」と流ちょうな日本語で答えたのは、施設の正社員として働くジェイソン・ブリトさん(25)。調理や配膳のほか、一人暮らしの高齢者の安否確認を兼ねた弁当の宅配サービスも担当し、毎日八軒を回って一つ一つ手渡す。「『ありがとう』と言われるとお金に代えられない喜びを感じます」。施設長の竜子(りゅうご)大二朗さん(56)は「人の懐に飛び込み、信頼を得る力がある。介護の仕事に向いている」と期待する。

 ブリトさんは二〇〇五年、小学六年生の時に来日。ザンビア大使館で庭師として働く父が家族を呼び寄せた。新宿区内の公立小に入ったが、日本語が全くできず、いじめられた。当時、外国人は自分一人。「地獄でした」と振り返る。

 見かねた校長が区内で無料の学習教室を開く小林普子(ひろこ)さん(71)を紹介し、日本語や勉強を教えてもらえるようになった。進路相談にも乗ってもらい、区立中から都立高に進学できた。

 高校卒業後、日本で生きようと決意したが、今度は在留資格が壁になった。当時の在留資格は大使館などで働く外国人と家族に与えられる「公用」の資格で、就労が禁止されていた。

 仕方なくフィリピンに帰って大学に入ったものの、日本生活が長いため英語での授業についていけず一年半で中退。日本に戻り、在留資格の変更を目指した。手続きは難航し、移民施策が充実しているカナダへの移住も頭をよぎった。

 長い審査期間を経て一七年秋、「特定活動」の在留資格がおり、就労が可能に。今の職場の内定が出て昨秋、更新できた。「僕は小林先生に相談できたけど、あきらめて日本を出てしまう人もいる」と明かす。

 深刻な人手不足解消のため、外国人労働者の受け入れ拡大を定めた改正入管難民法が四月に施行された。事実上の移民政策で、今後さらに外国人の増加が見込まれる。だが文化庁によると、六割の市区町村に日本語教室がなく、在留外国人の二割弱がこうした空白地域に住む。

 外国ルーツの子どもたちのニーズが年々高まっているにもかかわらず、公的な支援の手は差しのべられていない。現在、新宿区と協働で無料の日本語教室を運営するNPO法人「みんなのおうち」の理事を務める小林さんは「外国人支援の現場は民間の努力でもっている状態」と憤る。

 「日本で公教育を受けた子が制度の壁に阻まれ出て行ってしまったら社会的な損失。人材確保で受け入れを拡大するなら支援制度を整えるべきなのに、参院選の争点になっていない」

 ブリトさんは六月、旧ホームヘルパー二級に当たる「初任者研修」を修了し、身体介護ができるようになった。今は介護福祉士の資格を取って在留資格「介護」を得るのが目標。フィリピンにいる交際相手を呼びよせ、結婚もできるからだ。「初任給をもらい、税金も納めたときは日本の一員になったと感じた。将来日本の役に立ちたいと思っている人が勉強でき、就職できるサポートが広がってほしい」と願う。 (原尚子)

<改正入管難民法> 今年4月に施行。新たな在留資格「特定技能1号」「同2号」を設け、介護や建設、農業など人手不足が深刻な14業種で外国人労働者の受け入れを開始した。政府は「移民政策ではない」と強調する。「2号」は家族の帯同が可能。政府は5年間で最大34万5000人の受け入れを見込む。一方、すでに日本で暮らしている外国人は昨年末時点で約273万人、就労者は約146万人でともに過去最高。日本語指導が必要な子どもは4万4000人いるほか、学校に行っていない「不就学児童」の外国人は文部科学省によると推定1万8000人。

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