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労働者のための政治を 「偽装請負」の末、使い捨てられ 直接雇用求め会社を提訴

2019年7月16日 夕刊

東リ本社工場前で抗議の声を上げる藤澤泰弘さん(左)と、有田昌弘さん=兵庫県伊丹市で

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 「非正規労働者を使い捨てにするなーっ」。大阪空港に程近い兵庫県伊丹市にあるカーペットや内装材の総合メーカー「東リ」本社工場。正門前でマイクを手に職場復帰を訴えるのは、ここで「請負」として十八年間働いてきた藤澤泰弘さん(56)と、同じく八年働いた有田昌弘さん(53)だ。一昨年三月に仕事を切られ、同僚五人で東リに直接雇用を求める裁判を起こし、神戸地裁で闘う。労働者の四割に迫る非正規の窮状の解決も、参院選で問われている。 (宇佐見昭彦)

 五人は、住宅の壁と床のつなぎ目を覆う「巾木(はばき)」と呼ばれる内装材を主に作ってきた。二十四時間操業を三交代勤務で支え、年収は税込み三百万円台前半。大阪市内の請負業者に雇われ、東リの工場に通った。

 この労働形態は「偽装請負」では−。藤澤さんらがそう思い始めたのは三年前。弁護士のアドバイスがきっかけだった。

 労働者派遣と違い、企業が仕事を丸ごと業者へ任せる請負契約では、企業側に労働者へ作業を指示するなど指揮命令する権限はない。しかし、藤澤さんによると東リからの指示は日常的にあり、請負業者は機械・設備も持たず事業主としての独立性はなかったという。「ヘルメットも安全靴も作業着も東リの物だった」

 東リ工場での請負の形での就労は、製造業への労働者派遣が禁じられていた一九九九年ごろには始まっていた。現在は法改正され派遣が可能だが、三年ごとに労働者を換えなければならず、請負の方が熟練工を使い続けられるメリットが企業側にはある。

 違法な派遣を隠す偽装請負だった場合、企業が労働者に直接雇用を申し込んだと見なし、直接雇用する義務が発生する「みなし制度」の定めが労働者派遣法にある。同僚と労働組合をつくった藤澤さんらは一昨年三月、この制度を使い、直接雇用を求めて東リに団交を申し入れた。

 東リは団交自体を拒否。組合側によると、東リは別の派遣会社からの労働者調達に切り替えようとしていた。東リの工場長は組合側に「あなたがたの雇用は守ります」と派遣会社への移籍を促したという。

 藤澤さんらは応じ、全員移籍に向けて派遣会社の面談を受けた。直後に組合員十六人のうち十一人が組合を突然脱退。脱退者は全員、派遣会社に採用され、藤澤さんら五人は不採用になった。

 「五十代での職探しは厳しい。裁判にも費用がかかる。兵糧攻めだ」。懸命に働き家族五人の生活を支えてきた藤澤さんは歯を食いしばる。

 「これが救済されないなら、せっかく法改正し実現したみなし制度が生かされないことになる」。原告弁護団の村田浩治弁護士(59)は指摘し、こうした事態へ政治家の関心が薄れているように見えることを危ぶむ。「二〇〇八年に派遣切りが多発し、選挙で雇用の安定は重要な争点だったのに、今はどうか」

 かつて違法だった労働者派遣は、巨額の企業献金を続ける財界の意に沿い拡大した。「金のためでなく、労働者のために動いてくれる政治家であってほしい」と有田さんは心から願う。

 東リは裁判で「偽装請負に該当する余地は全くない」と主張。広報担当者は取材に「法に抵触する事実はない。詳細は差し控えたい」と話した。

<労働契約申し込み「みなし制度」> 民主党政権下の2012年の法改正で新設された労働者保護法制の一つ。派遣先企業が、違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れた場合、労働者に直接雇用を申し込んだと見なし、労働者が承諾すれば直接雇用される。15年の施行後、適用例はない。背景として、個別ケースについて偽装請負かどうかの労働局の判断が近年後退していることや、仕事を切られることを恐れて労働者が適用を求めにくいことが指摘されている。

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