• 東京新聞ウェブ

総合

<参院選ルポ>進む日米一体化 米圧力 戸惑う基地の街

2019年7月20日 夕刊

在校生に見送られ行進する新幹部自衛官(右列)=今月、広島県江田島市の海自幹部候補生学校で

写真

 「海軍兵学校以来の歴史と伝統を有するこの江田島における修練を終え…」

 七月初旬、広島県江田島市の海上自衛隊幹部候補生学校で行われた卒業式。山村浩海上幕僚長らは幹部養成課程を終えた中堅自衛官八十七人を前に、「伝統」を力説した。

 海自は旧軍の流れを最も色濃く残す一方で、米軍との関係も陸自や空自以上に緊密な関係を築いてきた。それが近年、かつてなく強まっている。四年前に成立した安全保障法制による集団的自衛権の行使容認を引き金に、米軍艦艇や米軍機を平時から守る武器等防護など、憲法九条の枠を超えるような制度整備が進む。

 「米国からのプレッシャーがどんどん強くなっている気はします」。式に参列したある自衛官は漏らした。

写真

 江田島から瀬戸内海を挟んだ海自呉基地では、ここを母港とする護衛艦「かが」が、G20大阪サミットの警備から戻っていた。同型の「いずも」とともに、事実上の空母に改修される。

 五月に来日したトランプ氏はかが艦内で安倍晋三首相と並び立ち「日米同盟は不動」とアピールし、米国製兵器の売り込みにも触れた。かが、いずもの艦載機は米国製戦闘機F35Bを想定。「日本はF35戦闘機を百五機購入する。同盟国で最大の保有国となる」。総額一兆二千億円。物心ともに「一体化」ともいえる関係を強調し、安倍首相も「私と大統領の下で、これまでになく強固になった」と力説していた。

 ところがその後、トランプ氏は日米安保体制への不満を米メディアに語り、六月二十九日のG20大阪サミット閉幕後の会見では「不公平だ」と発言、政府を慌てさせた。

 「米国だってどれだけ日本のために血を流すか私は信じられんですよ」。呉基地近くで、一九九〇年前後に潜水艦乗りだったという元自衛官は冷ややかだ。目まぐるしく振れるトランプ発言に「もっとカネを出せ、のアピールでしょ」。

 一方、呉と並ぶ海自の重要拠点の横須賀基地(神奈川県横須賀市)。海自と米海軍が近接する日米同盟の象徴的な地域だ。

 基地を望む対岸の公園で、祖父が横須賀海軍工廠(こうしょう)に勤め、父が特攻隊で出撃前に終戦を迎えたという元会社員の男性(64)は顔をしかめた。「尖閣諸島の問題にしろ、自衛隊だけで対応できないでしょう。米国とはうまくつきあうしかない。つかず離れず」。ただその距離感は「難しいね。国を守るためのコストはどこまで必要か…」。

 市街地の公園で、五歳の娘を遊ばせていた看護師市ノ川麻衣さん(29)は「今は徴兵制もないし、戦争は考えにくいけど、将来はどうなるか」と、漠然とした不安を吐露する。矢継ぎ早に注文を繰り出すトランプ氏。今のままの米国との関係強化は、本当に政府が唱える「わが国の平和と安全の確保」になるのか。

 「米国に押されっぱなしに見えるんです。このままだと、米国が戦争したときに、日本が一緒にやらざるを得ないような方向に思えてならない」 (原昌志)

護衛艦「かが」を視察したトランプ米大統領と安倍首相=5月28日、神奈川県横須賀市の海上自衛隊横須賀基地で

写真

<トランプ米大統領の最近の発言> 5月の来日時は、護衛艦かがの艦内訓示や日米共同記者会見などで「日米同盟は不動であり盤石」「日米の緊密な安全保障関係は、共通の価値観に基づいている」と称賛。一方、6月のG20大阪サミット閉幕後の会見では「(日米安保条約は)不公平な合意だ。日本が攻撃されたら米国は日本のために戦わなくてはならない。米国が攻撃されても日本は戦わなくていい。変えないといけない」と発言した。在日米軍駐留経費の負担増や日米貿易交渉での譲歩を迫る狙いがある、との見方もある。

主な政党の公約

新聞購読のご案内