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神奈川

<争点の現場>(中)家事代行事業特区 「女性活躍の切り札」の矛盾

2017年10月13日

パソナの担当者(右)と仕事の感想を話し合うエデリンさん=東京都千代田区で

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 政府が「女性活躍の切り札」と位置付ける特区制度が三月、全国に先駆けて県内で始まった。一般家庭の家事代行事業の担い手を外国人に開放。来日第一号のフィリピン人女性ゴリョソ・エデリンさんは「仕事も生活もしやすく満足」と話す。一方で、制度が持つ構造的な矛盾も見えてきた。

 「仕事を終えた時の達成感と、相手が喜ぶのがやりがい」。人材派遣大手パソナを通して働いているエデリンさんは笑顔を見せた。利用者は三十代後半〜四十代の女性が多い。需要は着実に増えているといい、「既に人手不足」とパソナの担当者。特区で受け入れた二十五人のフィリピン人が働く同社は、さらに同国の二十五人と年内に契約する予定だ。

 「女性活躍の切り札」といわれるのは、女性が担うことが多い家事の負担が軽減されるからだ。ただ、十分な人材を集めるのが難しく、政府は外国人労働者に目を付けた。国が出稼ぎを奨励し、家事代行人材の養成機関もあるフィリピンからの受け入れがまず決まり、パソナを含め六社が参入。神奈川に続いて特区制度が始まった東京都、大阪府、兵庫県と合わせ現在、三十六人が従事している。

 エデリンさんは「会社の人も親切で家族のよう」と満足げだ。事業者には、住居を用意し、日本人と同等以上の給与と休日を確保する義務が課されている。人権が侵害された際の相談や、年一回の監査といった仕組みも整備されている。

 外国人の人権問題に詳しい小豆沢(あずきざわ)史絵弁護士は「外国人技能実習生の二の舞いを避けるため、国は保護を手厚くした」と解説する。実習生制度では、日本の技術を習得するという名目で、外国人労働者を休みなく低賃金で働かせる事例が次々に明らかになっている。

 特区は労働力不足を補いつつ、外国人の人権を守ることを目指している。しかしその分、人件費などのコストと手間がかかる。小豆沢弁護士は「事業として継続可能なのか疑問」と指摘し、パソナは「採算は度外視。まずは制度の定着が使命」と明かす。

 相談制度も「機能するか不明」と小豆沢弁護士。フィリピン人は日本人と人権感覚が異なり、「多少の搾取は当然と考える風潮がある」。当事者の申告頼りでは、人権侵害を見逃す懸念がある。

 また、受け入れた人材は三年で帰国し、家事労働者としては再入国できない。事業者にとってせっかく育てても三年でいなくなるのは効率が悪い。小豆沢弁護士は「外国人を労働力の補完としか見ていない。移民、住民として受け入れる制度が求められる」と強調する。家事代行の特区制度は「一億総活躍社会」の在り方に課題を投げかけている。 (志村彰太)

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