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<争点の現場>(下)空き家問題 国政で抜本的な議論を

2017年10月14日

立ち入りができないよう、門がひもで縛られた空き家の前に立つ司法書士の今戸さん=横浜市内で

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 古びた木造平屋の門は、ひもで縛られて固く閉ざされていた。「『子どもが立ち入って危険だから』と町内会に言われて。すぐにでもさら地にしたいのだが…」。妻が、家と土地の所有者になっている横浜市の男性(71)が顔をしかめた。

 夫婦の住居から離れた市内の住宅街に立つこの家は一年以上、空き家のまま。昨年五月、夫婦から借りて一人暮らしをしていた高齢の男性が入居先の施設で死去。近所の住民から「草がボーボー。何とかして」と連絡を受け向かうと、ジャングルのように草木に覆われていた。

 業者に依頼し、最低限の手入れはしたが、それ以上は手が出せない。契約を解除しないまま亡くなった男性に「借地権」が残っていて、所有者だけでは決められないからだ。

 この高齢男性は妻に先立たれ、子どもはいない。借地権は、おいとめい計十三人に相続された。夫婦から相談を受けている県司法書士会の今戸晴美(はるよし)・空家問題対策委員長(66)は「相手の代理人によると、いずれも高齢で認知症の人もいる。なかなか意見はまとまらないだろう」とため息をつく。

 今夏も庭の池に大量の蚊が発生し、近所から苦情が寄せられた。「これ以上、迷惑はかけられない」。夫婦に焦りが募る。

 総務省の二〇一三年の調査によると、県内の空き家は全国の都道府県で三番目に多い四十九万戸。「この家のように権利関係が複雑だったり、所有者が不明だったりして対応が進まないケースは多い」(今戸さん)という。

 背景にあるのは制度の不備。一つには、相続などをした場合でも、不動産登記簿の名義を変える義務はないことがある。法務省は今月、制度の見直しを検討する研究会を発足させた。ただ、報告書がまとまるのは二年先。さら地にするより空き家のままの方が固定資産税が安い場合がある仕組みも、解体が進まない理由と指摘されている。

 一五年に空き家対策特別措置法が施行され、放置すると危険な空き家は自治体の判断で解体できるようになったものの、ハードルは高い。財産権の侵害につながる恐れがあり、簡単には実行できない。

 国の対策が追いつかない中、積極的に動いている自治体もある。人口減少が続く横須賀市は昨年から、高齢化が進み、空き家が増えそうな地域に職員と税理士らが出向き、相続や賃貸に関するセミナーや相談会を開くようにした。

 「空き家の増加は地域全体に悪影響を及ぼす。早いうちに問題意識を持ってもらうことが大切」と市の担当者。その上で「自治体だけでは限界がある。税制の変更など、抜本的な解決につながる対策を国レベルで議論してもらいたい」と訴えた。 (福田真悟)

  =おわり

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