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埼玉

<争点を語る>(中)農業 後継者難に歯止めを

2017年10月19日

「小規模農家にも目配りを」と訴える島田一雄さん=深谷市で

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◆9年ぶりに現場復帰 前JAふかや組合長・島田一雄さん(69)

 ネギやブロッコリーなどの野菜を中心に長年、首都圏の台所を支えてきた深谷市。二〇一五年の農業産出額は三百四十九億円と県内断トツだ。

 深谷市の「JAふかや」で副組合長を六年、組合長を三年務め、この六月に退任。九年ぶりに「現場復帰」した。自家用の稲作や切り花の生産をほそぼそと再開する中で痛感したのが「耕作放棄地の拡大が加速している」ことだ。地元の大谷地区でも最近、複数の農家から農地を借りて、農作業を一手に請け負ってきた農家が急病になり、二十ヘクタールもの耕作放棄地予備軍が突然生まれる事態が起きた。

 農林水産省の統計によると、一五年の深谷市内の耕作放棄地面積は八百二十六ヘクタールと全農地の約12%。JAふかや管内で、山間地を抱える寄居町はより深刻で、町内の耕作放棄地は四百八十九ヘクタールと全農地の三分の一を占めた。「耕作放棄地が増える一番の原因は農家の高齢化による後継者不足。あと十年で農家の数は三分の一になっているかもしれない」と案じる。

 JAふかやが昨年春、組合員を対象に実施したアンケートによると、後継者がいるとの回答は16%にすぎず、「後継者が未定」が32%、「後継者がいない」は46%にのぼった。「あと何年農業を続けるか」との問いには、「十年以上」が28%いたものの、「一年〜五年」が14%、「六年〜九年」13%、「既に農業をしていない、または家庭菜園のみ」が39%−と深刻な状況が浮き彫りになった。

 約二百年前から続く農家の八代目だが「後継者がいない」ケースに該当する。三人の娘はみな他家に嫁ぎ、担い手がいないのだ。

 もっとも、収入面で農業に魅力があれば後継者難に歯止めがかかるだろう。深谷市には肥沃(ひよく)で平たんな恵まれた農地が多く、大型農機を導入して大規模経営をする農業生産法人が近年、続々と参入している。コメや麦の栽培をやめて、タマネギやブロッコリーに変更したら面積あたりの収入が三〜五倍になったという大規模農家は多い。

 「規模拡大ができる場所はそれでいい。だが、問題はそこにはない」と指摘する。心配するのは大型農機が入れない変形した農地や中山間地などの狭小農地。「効率性」「競争力」などの言葉とは縁の薄いそんな場所で営々と続けられてきた農家の行く末だ。

 政府の規制改革推進会議などでの農業の競争力強化を巡る議論には違和感を覚える。「衆院選は各党、大票田の都市部を意識した公約が目立ち、後継者難に直面する地方の小規模農家にまで目が配られていない。小さな家族農業でも、安定した収入が確保できるような施策を」と注文を付ける。 (花井勝規)

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