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栃木

とちぎの現場から(上)1億総活躍社会 障害者支える人材を

2017年10月7日

太田さん(左)と協力してイチゴの茎を間引く鈴木さん=宇都宮市で

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 手元に視線を集中させ、イチゴ「なつおとめ」の茎を一つ一つ、丁寧に間引いていく。地道な作業の連続にもすっかり手慣れた様子だ。九月末、宇都宮市大谷町の障害者向け農業研修施設「大谷いちご倶楽部(くらぶ)」の温室で、鈴木努さん(38)が汗をぬぐっていた。

 施設は障害者が働ける場を作ろうと、市内の人材派遣会社「シーデーピージャパン」が子会社を通じて昨年設立。付近で採掘される大谷石の採石場跡にたまる地下冷水をパイプに流し、土壌を冷やして冬〜春が旬のイチゴを夏〜秋に栽培する手法を採用する。てんかんを患う鈴木さんら、身体、知的、精神障害のある人や高齢者など約十人が働く。

 鈴木さんは設立当時からのスタッフ。施設に来るまでは工場などでのアルバイト生活だったが、農家の手伝いをする機会があり、農業に興味を持ったことをきっかけに施設で働くことになった。時給制の契約社員として給料をもらいながら、仲間と一緒にイチゴを育てる喜びを感じる毎日だ。

 今年は温室内の温度管理など担当する作業が増え、責任が増した。「働ける実感があり、今は充実している」。鈴木さんは恵まれた環境との出会いに感謝する。

 安倍内閣が二〇一六年に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」。障害者の就労支援を掲げ、具体策の一つに農業と福祉の連携「農福連携」をうたう。障害者の活躍の場をつくり、農業の担い手不足も解消するというウィンウィンの取り組みとして、全国で広がっている。

 施設職員の太田栄子さん(45)は、安倍内閣が掲げる「一億総活躍社会」という理想を「障害者の気持ちを前向きに変えるきっかけになれば良い」と好意的に受け止めながらも、現実との差を感じている一人。福祉の現場で働いた経験があり、障害者が働く意欲を持ち続けることの難しさを指摘する。「体調が整わず、長期休暇になった人もこの施設にはいる。言葉のイメージは大きいが、理想と現実は違う」と言い切る。

 太田さんは「補助金を出して働く場所をつくるだけでなく、障害者を支える人材を育てていくことも大事だと思う」と国への注文も忘れなかった。

 栃木労働局によると、一六年度の県内ハローワークを通じた障害者の就職件数は前年度比6・2%増の千六百十件。〇八年度の七百十二件から毎年伸びている。だが、障害者が働く機運の高まりなどから求職件数も伸び続けており、一六年度の就職率は51・7%にとどまった。意欲のある障害者が活躍する場は足りていない。

  (藤原哲也)

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 十日の衆院選公示が迫った。第二次安倍内閣が二〇一二年十二月に発足してから、何が変わって何が変わっていないのか。県内の現場を歩き、声を聞いた。

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