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栃木

とちぎの現場から(中)指定廃棄物 行き場なく農家負担

2017年10月8日

防風林の一角にある指定廃棄物を指し示す人見さん=那須塩原市で

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 「あそこに見えるでしょう」。那須塩原市に住む酪農家人見忠夫さん(70)が指さす。東京電力福島第一原発から約百キロ。自宅の母屋から牧草地を挟み、三百メートルほど離れた防風林の一角に黒い塊が見える。二〇一一年の東日本大震災に伴う原発事故で発生した放射性セシウム濃度が一キログラム当たり八〇〇〇ベクレルを超える「指定廃棄物」だ。

 事故後に人見さんの土地の敷地内で刈り取られた牧草約五トンが幅約二メートル、長さ十数メートル、人の背丈ほどの高さに積まれ、黒いシートで覆われている。防風林の向こうには孫たちが住む家がある。人見さんは「心配だけれど、シートなどの維持管理は行政がしっかりやってくれるから」と信頼はしている。「邪魔ですよ。でも、自分のところから出たものだから仕方がない」

 指定廃棄物は県内に約一万三千五百トンある。このうち稲わらや牧草など約三千トンは、人見さんのような県北六市町の農家百二十三軒が庭先や耕地近くで一時保管を続けている。

 環境省は処分場(長期管理施設)を建設して指定廃棄物を集約する方針だが、候補地に選んだ塩谷町で反対運動が続き、建設のめどは立たない。

 今年七月には六市町など関係自治体との会議で、保管農家の負担軽減策として市町ごとに暫定的な保管場所を設ける暫定集約案などを提示した。市町長の一部からは、暫定集約地となる住民の新たな反対を生むことを懸念する声が上がり、農家が保管したままコンクリートを使うなどして強化する案が提起された。

 環境省が昨年十月〜今年三月に実施した農家の意向調査では、約八割が指定廃棄物を「持って行ってほしい」と答えている。人見さんも遠ざけられるならそうしたいが、「一時」だったはずの保管は、もう六年を超えた。「どこに持って行っても反対は起きる。他に解決策がないなら」。今は保管の強化案には消極的ながら賛成する。

 一方、県は「農家の負担軽減策は必要」(廃棄物対策課担当者)との立場だが、各農家で保管状態を強化する案には「保管の固定化と受け取られかねず、農家だけでなく周辺住民も巻き込む問題となる」と否定的だ。

 問題解決へ向けてさまざまな案が浮かんでいるが、いずれも実現には困難が待ち構える。ある県北の首長は「暫定的な保管場所をつくるのも難しい。国が激しい批判や反発を受けながらも、いずれかの場所に処分場を造るほかない」と厳しい口調で求めた。 (小川直人)

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