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栃木

とちぎの現場から(下)地方創生 繊維のまち足利奮闘

2017年10月9日

「うちは平面だけでなく、立体的で複雑な編み方ができる」と技術の高さを自負する大川さん=足利市で

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 「繊維のまち」として長く栄えてきた歴史を持つ足利市。絹織物の銘仙や縦編みメリヤス「トリコット」の生産高で日本一になったこともある。

 しかし日米貿易摩擦による輸出の縮小、安い外国産の流入などで繊維関連産業は衰退。足利商工会議所によると、繊維部会の会員事業所数は二〇〇六年度の六百三十六から一六年度は三百十五に半減した。

 田野雅己さん(64)は父親が創業した婦人子供服の製造販売会社を継いだ後、祭りやイベントなどの衣装づくりへ業務を転換した。繊維部会長だった六年ほど前、「個々に技術を持って頑張っている会社はある。協力して何かできないか」と勉強会を始めた。

 一五年、「足利サムライファイバー」と名付けたプロジェクトを立ち上げた。縫製や染色、印刷など異分野の専門家が連携。足利を「あらゆる繊維技術の集積地」として国内外にアピールし、商品開発、海外展開の足場づくり、人材育成を進めていくという構想だ。

 資金として、安倍政権が掲げた「地方創生」関連の交付金を活用。昨年十一月、パリで展示会を開き、今年九月には現地の洋裁学校を訪れた。国内の美術大とも交流を重ね、足利の繊維技術を紹介している。「その技術なら足利に頼んでみよう」「足利で働けば面白い仕事ができそう」。そう思わせるパイプづくりだ。

 田野さんは「伝統工芸ではなく、産業として考えてもらう方向にスイッチを入れたい。下請けから脱却し、利益率を上げたい」と思い描く。

 日常の業務を続けながらプロジェクトを進める難しさは当然ある。「そうそう海外に出かけられない。国に中小零細企業をフォローアップする制度を考えてほしい」と訴える。

 技術を生かして厳しい状況を打開しようと奮闘する動きは、ほかにもある。

 足利の地場産業であるトーションレース製造業「大定(だいさだ)」は、経済産業省がクールジャパン戦略の一環で地方の優れた商品の市場拡大を支援する事業に応募。同社独自の技術で製造したレースのネクタイが県内で唯一選ばれ、今年四月からパリのショールームで展示販売されている。

 大川達也専務(38)は「パリでの評判はいいようで利益は出ている。出して良かった」と語る。販売促進のため、九月に新しくデザインした箱も送った。

 政府が強調するアベノミクスの成果について、大川さんは「実感はない」と話す。一昨年から同業者が相次いで廃業した。経産省の支援事業に応募した背景には「地場産業を盛り上げたい」という思いもあった。「技術を守り、少しでも販路が広がるような環境づくりを考えてもらえれば」と望む。 (吉岡潤)

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