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投票率アップのカギは「優しさ」 総選挙で80%近く ノルウェーに学ぶ

2017年9月30日

投票所の記載台にはカーテンがついている

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 十月の衆院選は、各党の獲得議席とともに、二〇一四年の前回に52・66%と戦後最低を記録した投票率が大きな注目点となる。日本とは対照的に、総選挙で80%近い投票率を維持しているのが北欧ノルウェーだ。長年ノルウェー社会を研究する元東京都議の三井マリ子さんは「カギは有権者に優しい制度にある」と指摘する。 (安藤美由紀)

 ノルウェーは九月十、十一両日に総選挙があり、投票率は78・2%に上った。一三年から政権を担う中道右派の与党連合が辛勝し、連立政権を維持。女性議員の割合は過去最高の41・4%となった。首相も女性のソルベルグ氏だ。

 三井さんは八月下旬から約三週間、現地を訪問。首都オスロや地方の投票所、高校の生徒会主催の討論会などを視察して回った。

 ノルウェーの投票期間は日本より長く、期日前投票は二カ月以上前の七月一日に開始。投票所は公共施設だけでなく、繁華街にも設置されている。居住地外でも投票でき、仕事の合間に職場近くの投票所で一票を投じる会社員もいた。三井さんは「勤務地投票だ」と絶賛する。

三井マリ子さんが取材した高校の生徒会主催の政党討論会

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 病気などで投票所に行けない人は、事前申請すれば自宅や病院で投票できる。資格要件のある立会人や、必要に応じてヘルパーも派遣される。「投票権の剥奪は重大な権利侵害」との考えから、こうした配慮が行き届いているという。

 主権者教育として、希望した高校の生徒会が投開票日前に候補者を招き、政党間の討論会を行える制度がある。模擬投票もあり、結果は直ちに集計、公開される。一九八〇年代に始まり生徒たちはじかに民主主義を体感する機会になる。

 今回の選挙期間中には、人気のお菓子の包装袋に「あなたはどちらに投票する?」と有権者に呼び掛けるデザインが入った。

定番のお菓子も選挙仕様に。赤グミと青グミとが別々の袋に入っている。赤は左派政権、青は右派政権を指す=いずれもノルウェーで(三井さん提供)

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 街角や建物に候補者のポスターはない。限られた場所に政党ポスターがあるだけ。三井さんの案内役を務めた国会議員候補者によると、七〇年代までは路上でポスターを見かけたが、美観や環境に配慮して貼らなくなった。それでも投票率が高いのは、選挙制度や主権者教育が充実しているからだという。女性政策研究者でもある三井さんは「ノルウェーは世界で最も民主主義が進んでいるといわれる。日本が学べることは多い」と話している。

<ノルウェー王国> 立憲君主制で、人口は約525万人。国会は定数169の一院制で任期は4年。解散はない。日本の衆院選が小選挙区比例代表並立制なのに対し、選挙制度は多様な民意を反映しやすい比例代表制(拘束名簿式)を取る。選挙権、被選挙権とも18歳。議員の平均年齢は40代で、日本の50代に比べて若い。

◆日本の衆院選は2回連続50%台

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 投票率は、政治や選挙に対する国民の関心の高さを示す指標となる。衆院選では、自民、公明両党が政権を取り戻した前々回の2012年、与党が圧勝した前回の14年と2回連続で50%台に低迷。一方で、小泉政権当時の05年の「郵政選挙」、民主党政権が誕生した09年の「政権選択選挙」では、60%台後半まで上がり、選挙結果にも影響を与えた。

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