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「イメージ政治」政策論争深まらず 東工大・西田亮介准教授に聞く

2017年10月7日

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 政党の広報戦略が変わりつつある。インターネットを駆使して主張を浸透させる技術を高める一方、実体のない言葉が飛び交う「イメージ政治」に陥り、政策論争が深まらない恐れもある。東京工業大の西田亮介准教授(34)=社会学=に問題点を聞いた。 (聞き手・吉田通夫)

 −政党の広報戦略はどう変わってきたのか。

 「自民党は二〇〇九年に野党に転落して大手メディアで取り上げられる機会が減り、利用者が増えてきたネットに着目した。一三年にネットでの選挙活動の解禁に合わせ『T2(トゥルース・チーム)』を設置。ツイッターやフェイスブック、匿名掲示板を常に監視して悪評が立つのを防止し、ネット上に流れる情報を分析し有権者受けする主張を打ち出すなど組織的に取り組んだ。今、T2はないが手法は継承している」

 −他党の広報戦略は。

 「民進党や共産党、公明党などもネット対策や発信力の強化に取り組んでいるが、自民党が抜きんでている。希望の党は小池百合子代表がテレビキャスター出身ということもあり、既存メディアで大きく取り上げられるための勘所を熟知している印象だ。立憲民主党はツイッターのフォロワー数を急激に伸ばしたが、できて間もない政党ということもあり、組織的に広報戦略を展開したとは考えにくい。有権者の自発的な行動の結果ではないか」

 −政治が広報戦略の闘いになってしまう恐れがあることの弊害は。

 「政党や政治家が『どう発信すれば有権者に受けるか』という手法を高める一方、有権者が(政治家の)うそを見抜く力は高まっているとは言えない。政党の成り立ちや政治家の過去を調べて矛盾を見つける有権者は少ないだろう」

 「このため政党や政治家の発信力と有権者の判断力の間に差が生まれ、空虚な言葉が躍る『イメージ政治』に陥り地に足の着いた政策論争が軽視される恐れがある。安倍政権が強引な手法をとっても支持率がすぐ回復したり、希望の党は内実が不明なまま、一定の支持を集めたりした昨今の現象と無関係ではないだろう」

 −メディア側に改善すべき点はあるか。

 「政党や政治家の発信を精査して有権者の判断を助けるのはメディアの役割だ。しかしネットの台頭で既存メディアの影響力は低下し、一方のネットメディアも信頼性や認知度が高いとは言えない状態。その間に政治の広報戦略が進化し、読み解くべきメディアの対応やチェックが追いついていない。メディアとジャーナリズムの権力監視機能の高度化は急務だ」

<にしだ・りょうすけ> 慶大院修了、博士(政策・メディア)。立命館大特別招聘(しょうへい)准教授などを経て2015年から現職。主な著書に『メディアと自民党』など。

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