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原発、復興語らぬ候補者 福島・いわきルポ

2017年10月12日

福島県富岡町から避難した人が住む仮設住宅集会所の衆院選のポスター掲示板=同県いわき市で

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 東京から特急で二時間二十分。東京電力福島第一原発から南に約四十キロにある福島県いわき市で衆院選公示の十日、ある候補者の遊説先を巡り有権者に話を聞いた。深まる秋もこの日の最高気温は二六度。候補者も熱く語りかけたが、原発に関する訴えはほとんどなく、福島第一事故で避難している有権者らの視線は冷めていた。 (川上義則)

 いわき市を含む福島5区では四人が立候補。ある候補は市中心部のいわき駅前から南へと選挙カーを走らせた。「よろしくお願いします」。連呼される呼び掛けを、早川一三(かずみ)さん(76)は二階建ての仮設住宅の前で聞いた。復興住宅などへの転居が進み、四十戸のうち入居者はまばらだ。

 選挙カーから聞こえる候補者の話は野党再編の説明が多く、原発には触れず。「政治家は国民のことを考えているのか」とこぼす早川さんは、停止中の福島第二原発のある楢葉町出身。事故前に「原発は安全」と強調した政府や東電は除染すれば安全とするが、「孫の世代が地元に戻って本当に大丈夫なのか」と不安は尽きない。

 選挙カーの声は、映画「フラガール」で有名なリゾート施設スパリゾートハワイアンズに近い仮設住宅でも響いた。一人暮らしの三瓶ノブ子さん(73)は「今回は投票に行くかどうか」。今心配なのは、来春に転居する市内の復興住宅のことだ。今の仮設は同じ富岡町出身者ばかりだが、転居先は四つの自治体から集まり「なじめるかどうか」。しかし選挙カーは、復興のビジョンを語ることなく通り過ぎた。

 海沿いの町、小名浜のショッピングセンター前で、選挙カーは止まった。候補者が街頭演説したが、ここでも原発の話題はなし。その姿に、元漁協役員の新妻忠さん(73)は「原発事故のおかげで漁師が漁に出られなくなった」。福島沖は寒流と暖流がぶつかる好漁場だが、漁獲量は震災前の8%ほど。「漁業者が海に出る気持ちを持ち続けられるのか」。新妻さんの顔が曇った。

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