• 東京新聞ウェブ

全国

奨学金返済、将来に影 29歳男性「お金底突く…怖い」

2017年10月18日

毎年届く返還猶予期間終了の通知を見る男性。延長手続きをしているが最大でも猶予はあと3年だ=埼玉県内で(画像は一部加工)

写真

 安倍晋三首相が衆院解散の理由の一つに掲げた教育無償化。幼児だけでなく大学など高等教育も議論の対象となっている。奨学金を借りて大学に進んだものの、返済に苦しむケースが増えており、支援団体には今も相談が相次ぐ。 (土門哲雄)

 「こんなことになるとは思わなかった。事態を重く受け止めていなかった。お金が底を突きそうで怖い」。埼玉県内の喫茶店。支援団体の弁護士の紹介で会った県内在住の男性(29)が、不安げに語り始めた。

 男性は、首都圏の私大に通うために借りた七百万円以上の奨学金の返済義務を抱える。父子家庭で、高校卒業後は役者を目指そうと考えていたが、印刷会社勤務の父が「奨学金を借りる。必ず俺が返すから」と進学を勧めた。金額や口座管理は父に任せていた。

 卒業後、夢を捨てきれず、養成所を兼ねた芸能事務所に所属。在学中に父は勤務先が倒産し、タクシー運転手などで働いた。「奨学金は返す」という言葉を信じたが、父は三年前に脳梗塞で倒れ、現在はリハビリと求職活動の日々。経済困難となり、返済は猶予してもらっている。

 男性は昨年、知人のつてで機関紙編集の団体に就職したが、年収は三百万円に届かない。木造二階建ての一戸建てに父と弟の三人で暮らす。返済猶予はあと三年。その後は「破綻しないよう、返し続けるしかない」。保証人の叔父にも迷惑は掛けられない。

     ◇

 男性のように、さまざまな事情で奨学金返済に悩む人がいる。NPO法人「POSSE」の担当者によると、有名企業に就職したが、パワハラや過重労働で退社を余儀なくされ、返済できなくなるケースもあるという。

 現在、学生の四割近くが日本学生支援機構から奨学金を借りており、二〇〇四年度から約一・五倍に増えた。無利子は年間五十万人弱、利子付きは八十万人以上。平均給与が下がっているのに学費は上がり続け、私大の初年度納付金は約百三十万円。返済の要らない給付型の奨学金も導入されたが、対象は所得の少ない住民税非課税世帯で一学年二万人にとどまり、月額は二万〜四万円だ。

 「埼玉奨学金問題ネットワーク」事務局長の鴨田譲弁護士は「学費が高すぎる。放置すれば格差が広がり、貧困が連鎖する」と訴える。

 安倍晋三首相は、消費税増税の一部を教育負担の軽減に充てるとする。しかし、「『奨学金』地獄」などの著書がある岩重佳治弁護士は「消費税は生活の苦しい人ほど負担感が大きい。所得の再分配で財源を賄うべきだ」と批判する。

 冒頭の男性は「借りたお金は返さないといけない。でも、このままでは結婚や子どもを持つことに踏み切れない人が増える」と嘆く。選挙では訴えの真剣さに注目するつもりだ。

<教育無償化> 多くの党が幼児教育・保育のほか、大学などの「教育無償化」を公約に掲げる。具体策として、返済不要な給付型奨学金の拡充や授業料の減免を挙げるが、所得制限の可否は姿勢が分かれる。財源は消費税増税分の一部を使うとしたり、所得税などを通じた所得再分配で賄うとする主張がある。

主な政党の公約

新聞購読のご案内