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日米一体化ちらつく影 横浜の米軍ふ頭施設 安保法成立後「動き激しい」

2017年10月18日

米軍が使用する「横浜ノースドック」。右奥はみなとみらい地区=2015年1月31日、横浜市神奈川区で、本社ヘリ「あさづる」から

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 橋の向こうは、横浜港の米軍ふ頭施設「横浜ノースドック」。だから、橋のたもとにあるバーは「国境の店」とも呼ばれてきた。訪ねると、窓からは港の夜景、そして停泊する米軍の揚陸艇が見えた。

 「最近は動きが激しい」。マスターの林彰男(あきお)さん(76)は言う。「富士の演習場に向かうのか、戦車を積んだトレーラーが隊列を組んで真夜中に出ていく。異様な感じだよ」

 横浜港一帯には、米軍基地を監視する市民団体「リムピース」のメンバーたちがほぼ毎日、動きを確認しに通う。頼和太郎(らいわたろう)編集長(69)は「安全保障関連法の成立後、米軍と自衛隊の協力がおおっぴらになった。首都圏の、横浜の観光地のそばでも堂々とやるようになった」と感じる。

 今年九月、陸上自衛隊は米陸軍との合同訓練を東富士演習場(静岡県)などで展開したが、その一環でノースドックの一部を日米で共同使用すると予告した。横浜市基地対策課によれば「軍事訓練での共同使用は過去に例がないはず」。

 実際には「天候の影響で使用は見送られた」(防衛省)という。一方で頼さんは、予告した区域と別の場所で、陸自の自衛官らがトレーラーに米軍のコンテナや車両を積んで運び出す「輸送支援」の場面を確認、撮影した。

 八月には、ノースドックがHIMARS(ハイマース)と呼ばれる米軍のロケット砲兵器の輸送拠点になった。北海道の演習場に運ばれ、米海兵隊と陸自の合同訓練で実射された。五トントラックの後部から最大六発のロケット弾を一斉発射でき、緊急展開部隊が使う。空輸でき長射程で機動性が高く、日本で初めての実射だった。

 岩波新書「在日米軍」の著者で民間シンクタンク「ピースデポ」(横浜市)の梅林宏道(ひろみち)さん(80)は、安倍政権が二年前に成立させた安保法が実施段階に入り、日米の軍事協力が一気に拡大したとみる。

 「たとえば集団的自衛権の行使条件とされる『存立危機事態』はほとんど現実にありえない極端な状況。しかし米軍が攻撃を受けたとき自衛隊が同じ敵に反撃しなければならない場面があると法に書かれたことにより、自衛隊と米軍はその事態に備えた共同訓練が必要になった」

 その軍事協力の拡大の一端が、横浜のノースドックでも垣間見えた形だ。

 夕方。横浜港に汽笛が響き、日本最大の客船「飛鳥2(ローマ数字の2)」が出航した。ノースドックを望むみなとみらい地区の臨港パークに会社員の中村一成(かずなり)さん(41)が四歳の息子と散歩に来ていた。十年前から近所に住むが、ノースドックの存在は知らなかったという。

 この衆院選。各党の安保法への立ち位置は「運用」「修正」「廃止」の三つに分かれた。中村さんは「北朝鮮の脅威で日米同盟が試されている状況で、協力を強めていくのは大事と思う。でも、本当に自衛隊の武力発動がリアリティーを帯びてきたのは怖い」と話した。 (辻渕智之)

 <横浜ノースドック> 戦前から戦中にかけ、内務省(当時)が瑞穂ふ頭として整備した港湾施設。連合国軍が接収し、1952年のサンフランシスコ講和条約発効以降、米軍が物資の陸揚げなどに使用している。ベトナム戦争時は米軍相模総合補給廠(しょう、相模原市)で修理した戦車を戦地に送り出した。

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