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かすむ原発の是非 再稼働控える佐賀・玄海町

2017年10月19日

高台の住宅街からは、近くにある玄海原発1〜4号機の原子炉建屋が一望できる=佐賀県玄海町で

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 佐賀県北西部の玄海町にある九州電力玄海原発3、4号機が、来年1月以降に再稼働する。衆院選で複数の政党が「原発ゼロ」を掲げたものの、町を含む選挙区では、候補者3人のうち2人が再稼働を容認し、選挙戦でも話題にしていない。地元経済が依存してきた原発への反対の声は少なく、争点が埋もれている。 (小川慎一)

 原発三十キロ圏内に市域の大半が入る伊万里市は、市長が再稼働に反対している。十四日午後四時すぎ、伊万里駅近くを、「原発ゼロ」を公約にする希望の党の候補者の選挙カーが走った。「安倍政権をストップ」。スピーカーから候補者の声が流れるが、原発に関する訴えはない。

 駅前バス停で、女性会社員(30)が長男(3つ)と一緒に選挙カーを見ていた。「事故が不安だから、原発には反対。友だちもみんな反対だけど、憲法とか福祉とか、大事なことがあるし」

 伊万里市や玄海町を含む佐賀2区では、共産党の新人候補のみが再稼働に反対。自民党前職と、民進党から希望の党に移った前職の二人は再稼働を容認し、選挙公報に「原発」の文字はない。県と原発が立地する玄海町が再稼働に同意済みで、「部外者」は口を出さないというような状況だ。

 昨年から市内で再稼働反対の運動をしている吉永節子さん(70)は、「政治家が動けば変わるのに、原発を口にしない候補者が多くて、本当がっかり。選挙の時ほど大事なことが語られなくなる」と憤った。

 原発がある玄海町では、表立って再稼働を反対する声は聞こえてこない。人口は県内の市町では最少の約五千七百人。歳入の六割超を潤沢な原発関連の交付金などが占める。九電の下請け会社、原発作業員が泊まる民宿が多く、町の経済は原発を中心に回ってきた。

 ただ、役場がある中心部の通りは、シャッターが閉まったままの店や空き家が目立つ。通り過ぎた路線バスの車内にも客はない。

 原発の南約四キロにある同町の仮屋漁港。沖合には、マダイの養殖のいかだが浮かぶ。「しーんとしちょるやろ。若いもんはみんな都会に出たけん。出ない船が多か」。元漁師の男性(78)が腕組みをして言った。

 原発について聞くと、男性は「推進した方じゃけ。九州のため、国のため、良かったと思っとるよ。ここは福島みたいな津波の心配はなか。事故は起きん」。再稼働には賛成だ。「原発すぐやめたら、相当な人を困らせることになると。そげん覚悟があるんか」

 役場近くに戻り、スーパーで買い物を終えた六十代の女性に声をかけると、自民党員だという。「原発は怖かよ。でも、そげんこと人前では言えん」。雨音にかき消されるような小さな声だった。

<玄海原発と自治体> 事故時の避難計画を作る義務を負う原発30キロ圏内に佐賀、福岡、長崎の3県8市町を含む。佐賀では伊万里市、長崎では壱岐、平戸、松浦市の3市の計4市長が再稼働に反対した。ただ現行の仕組みでは、原発が立地する市町村と県の同意があれば、再稼働できる。

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