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「TPP騒ぎは何だった」 栃木・鹿沼 先行き見えぬ農家

2017年10月21日

米国へのイチゴ輸出を手掛ける渡辺優樹さん=栃木県鹿沼市で

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 イチゴの生産量全国一の栃木県で、人気の「とちおとめ」の生産が盛んな鹿沼市。市役所には「いちご市」の大きな懸垂幕が掲げられている。

 イチゴ農園「フレッシュ園渡辺」を共同経営する渡辺優樹さん(33)と姉の岩井宗美(ひろみ)さん(39)は昨年、米ロサンゼルスへの輸出を始めた。岩井さんによると、県内でも東南アジア向けの輸出はあるが、米西海岸へは国産初。「正直言うと、輸出の利益は微々たるもの。でも、品質の裏付けになる」と胸を張る。

 イチゴはロサンゼルスのスーパーなどで一パック二千円ほどで売られ、今年も約七百キロを完売した。空輸に一週間かかり、検疫も厳しい。イチゴは傷みやすく、輸出のリスクは大きいが、果実につるを付けたまま手で触れないようにしてパック詰めしている。

 岩井さんは「政治家が気にするのはJA(農協)や大きな組織の声ばかり。JAに入っていないうちのような農園はネット通販や輸出で販路を広げていかないと」とアピールする。選挙は「自民党支持というわけではないんだけど、野党に任せるのも不安…」。渡辺さんは「政治に頼るより、自力で夢のある農業を切り開いていきたい」と話す。

 政府が輸出促進による「攻めの農業」を掲げる中、農家は環太平洋連携協定(TPP)の動きに翻弄(ほんろう)された。「とちぎ和牛」の生産農家「ファーム横尾」(鹿沼市)は約百三十頭を飼育。三年前に肉の直売所も開いた。

 「TPPの騒ぎは、何だったのか」と経営者の横尾光広さん(41)。JA栃木青年部連盟委員長として国会前で座り込んだり、宇都宮駅前でチラシを配ったりして「TPP反対」を先頭に立って訴えてきた。安い外国産の牛肉が大量に入ってきたら…。「今は差別化できているけど、米国産の品質が上がったら価格競争では厳しい」と感じている。

 結局、トランプ米大統領がTPP離脱を表明。日本は米国に復帰を求めるが、先行きは不透明だ。「米国と二国間交渉になったら、もっと厳しい条件を突きつけられるかもしれない」と横尾さん。自民党はかつてTPP反対を表明したが、結果的に参加。釈然としないが、長年、地域の農業を守ってきたのも自民党だと感じている。選挙は「農家の声をしっかりと届けてくれる候補者を選ぶ」。

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 かつて自民党の集票マシンと呼ばれたJAグループ。近年は自民・小泉進次郎氏が「農協改革」の旗を振り、風当たりも強い。農業機械や農薬を販売するJAの既得権の構造にメスを入れるという主張だ。

 「JA解体って言われると心配になる」。JAかみつが奈佐原直売所(鹿沼市)で段ボールを整理していた阿久津尚道さん(26)がつぶやいた。

 農家の高齢化と後継ぎ不足は深刻。耕作放棄地も増えている。大手企業の農業ビジネス参入に「規模と安さでつぶし合いになったら、農家は厳しい」と阿久津さん。「農家を守り、農作物を安定供給するのがJAの役割」。選挙では、若者が農業に魅力を感じるような政策を進めてほしいと願い、投票するつもりだ。 (土門哲雄)

<環太平洋連携協定(TPP)> アジア太平洋地域で一つの経済圏を構築する試み。関税撤廃や知的財産保護などのルールを定めようと、日本、米国、オーストラリア、マレーシアなど計12カ国が2015年10月に大筋合意した。17年1月に米国が離脱表明。現在は11カ国で協定発効を目指して協議を進めている。

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