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衆院選結果 各国反応 北、米追随の日本を批判

2017年10月24日

 【北京=城内康伸】北朝鮮の対外窓口機関の役割を果たしている朝鮮アジア太平洋平和委員会の報道官は二十二日の談話で、安倍晋三首相が北朝鮮の核問題による「国難」の突破を名目に衆院解散に踏み切ったと指摘し、「いかなる大義名分もない」と批判した。また、米国と歩調を合わせ、北朝鮮への圧力を強める日本に強く反発した。朝鮮中央通信が伝えた。

 談話は「日本が米国を後ろ盾に、再侵略の準備に拍車をかけていることが明らかになった」と非難。日本が米軍を駐屯させ、自衛隊と合同軍事演習を行っていることを挙げ、「わが民族に対する耐え難い挑戦で、許しがたい特大型犯罪行為だ」と主張し、「相応する強硬な自衛的措置を行使する権利がある」と脅した。

 さらに「(日本は)日本列島を飛び越えたわれわれの中距離弾道ミサイルが何を意味するのか、いまだに理解できていない」とし、「核強国、世界的な強国となったわが国の戦略的地位を正しく理解すべきだ」と警告した。

◆中国政府がけん制「平和と安定望む」

 【北京=浅井正智】中国外務省の耿爽(こうそう)副報道局長は二十三日の記者会見で、衆院選で与党の議席が改憲発議が可能な三分の二を超えたことについて、「日本が平和発展の道を歩み続け、地域の平和と安定のため、建設的な役割を果たすことを望む」とくぎを刺した。

◆日台関係の発展 台湾総統が期待

 【台北=迫田勝敏】総選挙の与党勝利を受け、台湾の蔡英文総統は二十二日夜、日本の対台湾窓口機関、日本台湾交流協会を通じて安倍晋三首相に祝意を伝えた。

 安倍氏が日台関係を重視し、台湾の国際組織参加や国際活動を支持してきたことに謝意を表明。日台関係がさらに発展することを期待した。

◇安倍政権継続に各国の識者は

 22日の衆院選で安倍晋三政権の継続が決まった。日本を取り巻く国際情勢にどのような影響があるのか。米国、中国、ロシア、韓国の識者に聞いた。

◆ロシア 対北圧力に違和感

<アレクサンドル・パノフ 元駐日ロシア大使>

 ロシアにとって、安倍政権の継続は望ましい結果だ。安倍首相は対ロ関係で経済協力を伴う新たなアプローチを提案し、北方領土問題にのみ意欲を示したこれまでの首相とは違う。安倍政権が退陣するような選挙結果なら、日ロ関係に展望はなかった。

 昨年十二月の日ロ首脳会談で合意した北方領土での共同経済活動は、海産物養殖や風力発電、観光事業などなら双方に法的な問題も少なく、早期に実現可能だろう。両国には積極的でない官僚もおり、さらに強いリーダーシップが必要だ。

 しかし、北朝鮮に対して圧力を強化するという安倍政権の政策には違和感を覚える。制裁は何ももたらさない。現実的な交渉が必要だ。安倍氏が選挙に勝つために強いリーダー像を見せようとしたのは理解できるが、選挙後は逆の政策をとるべきだ。もし戦争が起きたら損害を被るのは米国ではなく、日本と韓国だ。日本は米国に百パーセント従うのではなく、自分の立場をとるべきだ。 (モスクワ・栗田晃)

◆中国 特に「9条」動けば批判

<日本の政治外交に詳しい 北京大の梁雲祥(りょううんしょう)教授>

 日本との関係は改善の兆しがあり、安倍政権の継続で、この流れが続くはずだ。年末に予定される日中韓首脳会談には李克強(りこくきょう)首相の出席が見込まれ、経済的にはウィンウィンの関係が進展するだろう。

 ただ、安倍氏が憲法改正、特に九条改正に動きだす場合はぎくしゃくする可能性がある。中国政府は「(日中戦争での侵略など)歴史的経緯から日本の姿勢は、アジアから注目されている」と懸念を表明するぐらいで内政に干渉しない態度を示すが、官製メディアは「平和憲法を捨て軍国主義が復活する」などと批判を強めると予想される。

 習近平(しゅうきんぺい)指導部は、大国化へ向け米中関係の安定が基本で、日本は二の次だ。朝鮮半島情勢の急激な変化がないかぎり、東シナ海問題など根本的問題の解決を探ることはないだろう。国内から反発が出て政治的にマイナスだからだ。安倍政権の右翼的な色彩が強まれば、習氏の公式訪日も実現できるか不透明だ。 (北京・安藤淳)

◆韓国 平和憲法に安心感抱く

<韓国外交に詳しい 韓国外大の尹徳敏(ユンドクミン)教授>

 加計学園を巡る疑惑で一度支持率が大きく下がったのに、安倍首相は北朝鮮の挑発や野党の自滅を見事に活用して大勝した。日本国民は安全と安定を求めたのだろう。

 日韓関係では改憲が気にかかる。日本による植民地支配という歴史がある中、韓国人が戦後の日本に安心感を抱いてきたのは日米同盟、平和憲法、専守防衛があったから。それが崩れるなら、日本は周辺国にしっかり説明する必要がある。ただ今回の選挙で日本国民が改憲を支持したとは思わない。責任ある国として平和を追求してほしい。

 北朝鮮問題では今後、米国が北朝鮮の核保有をいったん認める可能性がある。北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発を凍結すれば、米国は自国の安全を守れるからだ。しかし日韓は徹底した非核化を求める必要があり、協調が大切になる。

 歴史問題などで安倍氏と文在寅(ムンジェイン)大統領の考えは違うが、北朝鮮問題、反保護貿易などでは日韓の利益は一致する。両首脳はそのことをしっかり認識するべきだ。 (ソウル・境田未緒)

◆米国 初訪日のトランプ氏 米軍負担求めやすい

<東アジアの政治経済に詳しいボストン大 ウィリアム・グライムス教授>

 トランプ米大統領は気まぐれな性格で、個人的な関係に基づいて行動することが多い。トランプ氏がよい印象を持つ安倍氏の続投は良好な日米同盟の維持につながり、米国にも有益だ。

 トランプ氏の十一月の訪日では、朝鮮半島の不測の事態に際し、日本が米国にどのような支援をするかについて話し合う機会になるかもしれない。トランプ氏は日本が防衛負担を増やすべきだとの考えだ。安倍氏は米国の負担軽減や在日米軍支援に前向きなので、トランプ氏も要求しやすい。

 また、トランプ政権は、貿易赤字の問題に強い関心を持っており、日米自由貿易協定(FTA)の交渉入りを呼び掛けるだろう。円安や非関税障壁などに関しても発言する可能性がある。日本としては、米国が抱える北米自由貿易協定(NAFTA)や米中貿易などの課題よりも日米の協議を後回しにするよう取り組むことで、貿易問題でのトランプ氏の圧力をかわすことが得策だろう。 (ワシントン・後藤孝好)

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